「しわい屋」


 
あらすじ 倹約・もったいないが過ぎた、ドケチ、吝嗇(りんしょく)のお噺。
 町内に火事があっておさまった頃、見舞客に店の旦那「おかげ様で風向きが変わりまして、こちらは被害がなくて済みました・・・定吉やがないよ・・・起こすことはないよ。向こう側の焼けた家から十能を持って、おきをもらっておいで・・・」

 定吉が向かいの家に行くと、「ふざけるな。おきなんか一かけらもやれるもんか、とっとと帰れ!」、定吉は帰ってこのことを話すと、旦那「ケチな野郎だ。今度こっちが焼けたって火の粉もやるもんか」

旦那「定吉、雨戸を修繕するからお隣から金槌を借りておいで」、定吉が隣へ借りに行くと、主人「貸さないこともないが、打つのは鉄の釘か竹の釘か」、「たぶん鉄の釘でしょう」、「それなら金槌が減ってしまうから貸せない」、戻って定吉「金槌が減るから貸せないということで」、旦那「回り近所はケチばかりだな。そんならうちのを出して使おう」

 この旦那は梅干しをにらんで、口の中に酸っぱい水を溜めてご飯を食べ、隣の鰻屋で焼く鰻のにおいをおかずにして飯を食っている。月末に鰻屋が鰻のにおいかぎ賃を取りに来た。旦那「うーん、なかなかやるなと」思ったが、懐(ふところ)から財布を出して振って、「かぎ賃だから、音だけ聞いて帰れ」と、ひるむことはない。扇子なんぞは気前よく?全開して一生使うと言う。扇子は振らずに首を振るというから恐れ入る。

 ある晩、ケチ仲間が訪ねて来た。通された部屋は真っ暗で何も見えない。
旦那 「少し辛抱すれば暗闇でも目が慣れて見えてきますよ」、それは理屈で、

ケチ仲間 「ああ、見えてきました。おや、こりゃ驚いた。あなたは裸ですね」

旦那 「ええ、表へ出る時だけ着物を着るんですよ」

ケチ仲間 「寒くありませんか?」

旦那 「寒くなんかありません。いつもをかいています」

ケチ仲間 「汗をかいている。・・・何かまじないでも・・・」

旦那 「あたしの頭の上をご覧なさい。細い紐でたくわん石をぶら下げてあります。いつ紐が切れて落ちて来やしないかと、冷や汗をかき続けています」

ケチ仲間 「いやあ恐れ入りました。危なくてとてもいられません。おいとまします」

旦那 「お帰りですか。じゃあ、このをお持ちなさい」

ケチ仲間 「薪なんか持ってどうするんです?」

旦那 「薪であなたの目と鼻の間をぽかりと殴りなさい。そしたら火が出るから、それで履物を探しなさい」

ケチ仲間 「へへ、たぶんそんなことだろうと思って、下駄ははかずに参りました」

旦那 「なに、裸足で来た。たぶんそうだろうと思って畳を裏返しにしておきました」


 
        





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