「こり相撲」(相撲風景)
★あらすじ 相撲は取る方も見る方も力が入る。
観客甲 「お~い、そこの前の人、帽子取ってくれ、土俵が見えないぞ。・・・あれ、帽子を取っても見えないよ。えらく長い頭してやがる。お~い、頭を横に倒せ、もっと、もっと、・・・ようし、これで見えるようになった」、「そんな長い頭を横に倒したら、今度は後ろが八人見えなくなってしまう。前へ倒してください」で、長頭男は頭を前へ倒す羽目に、なんと土俵際の審判の後ろまで頭が伸びているが、可哀想に肝心の相撲が見えなくなってしまった」
観客甲 「ぶちかかまして前褌(まえみつ)取って、一気に出ろよ!前褌、前褌!ようし、押せ、押せ、前へ出ろ!」、自分も夢中になって前の人の帯つかんで押している。
観客乙 「こらぁ、帯離せ!」
観客甲 「前褌、離すなよ、離すなよ。・・・あぁ、離してしまった。馬鹿野郎!」
観客乙 「あんたも離すんだよ。・・・帯が切れてしまう、帯が・・・」
観客甲 「切れるような帯、どこで買った」
観客乙 「余計なお世話だ。浅草の帯善だ」、「安物買うな」
こっちでは両手におにぎりを持って食べながら振り回して応援している。
観客丙 「絶対勝てよ、俺がついてるぞ!・・・よっしゃ!、まわしをしっかり掴め、絶対離すなよ、グゥッと掴んだらしっかり握って前へ出ろ!」、手に力が入って思わずおにぎりを握りつぶしてしまった」、「あんた、おにぎり握りつぶして、指の間からぼろぼろこぼれていますよ」
観客丙 「かまうもんか、これがほんとの握り飯だ」
観客丙 「おい、どうしたさっきから青い顔して・・・気分でも悪くなったか?」
観客丁 「さっきからこの一番、この一番が終わってから行こうと思ってたんだが、もう小便我慢できない」
観客丙 「だったら早く行けよ」
観客丁 「溜まり過ぎて動いたら溢れ出しそうでもう立てない」
観客丙 「手間のかかるやっっちゃ・・・ちょっと待て、斜め前の酔っ払いの足元に酒の二合瓶が転がっているだろ。あれ持って来るから・・・さあ、この中に急いでやっちまえな」
観客丁 「そう、せかすなよ。せかすと止まっちゃうから」
観客丙 「こらぁ、横綱!取りこぼしはできないぞ!・・・おお、一本じゃ足らねえか、これにお替わりしちまえ」、小便男は出るもんだしてすっきりだが、
観客丁 「弱っちまうなこの小便瓶・・・酔っぱらって居眠りしてやがら・・・それじゃあ、元の所へそっと置いて・・・」と、無事解決。一方の酔っ払いのところへ出方さんが寿司を持って来た。
酔った客 「・・・何でぇ?寿司?今頃持って来やがって、・・・いいよ置いてきな・・・おっとちょっと待て、酒が無え・・・ああ、あった、あった、黙って持ってきてくれたんだ、ご苦労さん」で、寿司をつまんで酒を飲もうとする。
酔った客 「・・・なんだこの酒、すげえあぶくだ。・・・鼻につ~んときて、目にしみやがる・・・目開いていられやしねえじゃねえか、悪い酒だねどうも・・・うぅっ・・・」、これじゃほんとに飲んでしまうと見かねて、
観客丙 「旦那、旦那・・・すいません、これはあすこにいる・・・」
酔った客 「えっ、これが、あなたのお友達のアレで・・・こちらこそよそ人の物を黙って飲もうとして相済まんこって」
観客丙 「とんでもない。謝るのはこっちで・・・」
酔った客 「えらい!あんたは正直でえらい!江戸っ子はそうこなくっちゃ。どこの生まれで?」
観客丙 「へい、神田の生まれで」
酔った客 「気に入った、寿司食いねえ、酒飲みねえ」
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★雷助六(八代目)の『こり相撲』【YouTube】
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