★あらすじ 明石の浦を大坂に向かう船の船足が急に鈍くなった。船頭がどうしたのかと調べてみると船に水死体が流れ着いている。調べて見ると漁師とか船乗りには見えない。船頭は念仏を唱え、船荷用の筵(むしろ)を被せてねんごろに弔い、水死体をそのまま流した。
船が大坂に着いて船頭は宿で寝ていると、その枕元に立ったのが昼間の水死人。
「先程はご丁寧な供養をしていただき有難うございます。私はさる高貴なお公卿さんに召し使われていた者でございます。主人は零落して河内の額田というところで手習いの師匠をしてのその日暮らし。あまりのお気の毒な日常に見かねまして、私は旧臣たちを回り、やっと五十両の金をを集めました。その金を主人の元へ届ける途中、乗った船が難破して私は命を落としました。どうかこのお金を主人の元に届けていただきたい」と言うと、姿が消えてしまった。変な夢を見たなと枕元を見るとちゃんと金の包がある。
正直者の船頭さん、五十両を猫糞(ねこばば)してしまおうなんて考えは微塵も起こらず、親切にもその金を河内の額田まで届けに行く。やっと公卿さんの家を探し当てて、金を差し出すと喜ぶどころか、
公卿 「折角やが幽霊から金を預かるなどは信じられぬ事。見も知らぬお方から金の施しを受けようなどとは夢にも思わぬ」と、信じられない返事。
船頭さんも折角持って来てやったのに受け取らないのなら”あぁ、そうですか”と持ち帰ればいいものを、無理に渡そうとして押し問答で、お互い一歩も引かない。
そのうちに公卿が裏口から逃げ出した。船頭さんはしつこく追いかける。とうとう公卿さんは山の中に逃げ込んでしまった。
「船頭追うて(多くして)公卿(船)山へ登る」という、馬鹿馬鹿しいお噺。
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