「胡椒のくやみ」


 
あらすじ 八公の長屋の大家の娘さんが病いでぽっくり死んでしまった。八公はくやみの一つでも言いに行こうと、兄貴分のところへくやみの言い方を教わりに行く。

兄貴分 「やめとけよ。お前みたいな笑い上戸が行って変に笑ってみろ、張り倒されるのが落ちだ」

熊公 「そうは行かねえんだ。大家さんにはいろいろ世話になってるし、あそこの娘さんが子供の頃には、長屋のガキどもと一緒に遊んであげたことがあるんで」と、どうしても教えてくれと言う。

 それじゃあと、兄貴分「くやみなんてのは、あまりはっきりと長々と言うもんじゃねえ。口ん中で、もそもそ言っているうちに終いになるもんだ。承りますれば、お宅のお嬢様がお亡くなりだそうで、ご愁傷様でございます、このくらいの文句ならおめえにも言えるだろ。ちょっとやってみな」

熊公 「うん、フフフ、うけたがわりますれば・・・ハハハ、お宅のお嬢様がいなくなりだそうで、ご馳走さまでございます。・・・フフフ、どうだ上手いだろ」、こんな調子だから教える兄貴分も大変だが、何回も繰り返すうちに文句だけは何とか言えるようになった。

 だが、途中でへらへらと笑う癖は直らない。そこで八公の手のひらに胡椒の粉を乗せ、「これをなめてからやってみな」、熊公、ペロっと胡椒をなめて辛くて涙をこぼしながら、「クシュン、はあー承りますれば・・・ご愁傷様でございます」と、何とかくやみの形になった。

熊公 「これはくやみの薬か。俺にくれ、持って行ってくやみをやるから」

 兄貴分は胡椒を一袋渡して、「上手くやってきな」と、八公を送り出した。

 八公が大家のところへ行くと、先客が長々とくやみをやっている。「まあー、お話を伺いましてびっくりいたしました。・・・奥様あまりお気をお落しになさらずに・・・奥様が床につくようになりましては・・・どうぞ気をしっかりとお持ちあそばして・・・」

熊公 「やってます。やってます。上手いもんだねえ。でも、くやみはもそもそと短くと兄は言ってたが、やけに長いね。きっとくやみの薬をたんとなめてやってんだな」と、熊公、負けてなるかと胡椒をペロペロとくやみを始める前からなめだした。くしゃみは出るは鼻水、涙は出るは。

奥様 「誰だい、そこで泣いているのは。おや八っつぁんじゃないか。いつも笑っているお前さんが娘が亡くなってそんなに悲しいのかえ」

熊公 「はあ、ハクション。口の中がえらい辛くって、おかみさん、水、水ください」

奥様 「はい、水、大変な騒ぎだねえ」、一気に水を飲み干して、

熊公 「フフフ、お宅のお嬢さんが・・・ハハハ、あーあ、いい気持だ」






        




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