★あらすじ 暖かくなったので、清やんが大和炬燵を縁側に放り出しておいたら、雨で濡れて柔らかくなってしまった。指で押すと穴が開き、指先でこねると丸い土の玉がいくつでも出来る。
この丸薬に見える丸い玉でひと儲けができると考えた清やんは、喜六を二円の日当で誘い、あくる朝早く風呂敷包を背負わせて、城の馬場を斜めに突っ切り、片町から野辺へ、朝霧のかかる田舎道を、ある村の入口までやって来た。
茶を飲みながら茶店の婆さんから村の様子、情報を聞き出す。清やんは婆さんの話から村で一番金持ちそうな次郎兵衛さんの家に目をつける。
そばでまだ駄菓子をほうばっている喜六を引っ張って、次郎兵衛さんの家の近くまで来ると清やんは、「わしはあの家に干鰯(ほしか)屋のふりをして入って行く。・・・この煙草入れには胡椒の粉が入れてある。わしが合図したら、おまえはそっと裏の牛小屋に行って、牛の鼻に煙管(きせる)で胡椒の粉を吹き込むのや。それで二円の日当だから、しっかりやれ」
清やんは、靭(うつぼ)の干鰯屋になりすまし次郎兵衛さんに取り入り、話をしながら頃合いを見計らって喜六に合図。喜六は段取り通り牛小屋に回って、煙管に詰めた胡椒の粉をフーッと牛の鼻に吹きかけた。しばらくすると牛は地べたへ鼻をこすりつけて苦しみ出した。
家の者の騒ぎで驚く次郎兵衛さんに清やん、「・・・近頃、和泉のほうでこんな牛の病気がはやっとります。急に苦しみ出して、三日もたたないうちに死んでしまう。ほかの牛にもうつって、牛小屋全部、村の牛全部が死んだところもおます。・・・ちょうどこの病気に効く薬を持ってますんで・・・」と、例の丸薬をおもむろに取り出し、手桶の水で牛の口へ流し仕込むように見せかけ、牛の鼻の中にザブザブ。すっかり胡椒を洗い流してしまった。
牛は何事もなかったように、「モォー」と、もう何ともない。
喜ぶ次郎兵衛さん、「よく効く薬やなぁ、何という薬や、どこで売ってるのや」、清やんはもったいぶって、「まだ数が少なく高すぎて、薬屋などでは売っておまへん」、そう言われるとなおさら欲しくなる次郎兵衛さんに清やんは、「ほんなら、一粒一円で十粒だけ」と、売りつけた。
話を聞いた村人が続々とやって来た。困ったふりを装いながら、清やんは持ってきた百粒以上の偽丸薬を完売御礼。
帰り道を急ぎながら喜六 「おまえはえらい男やなあ。ちょっとの間に、あれだけの金、だいぶ懐(ふところ)がぬ(温)くなったな」
清やん 「ぬくなるはずや。もとは大和炬燵や」
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