「首ったけ」


 
あらすじ 吉原のいつもの見世に登楼(あが)った辰さん。なじみの花魁(おいらん)の紅梅は、他の客たちと大広間へ入った切りで顔を見せない。大広間ではどんちゃん騒ぎで、かっぽれなんか踊って、飛んだり跳ねたりズシン、ドシン、バタン、その騒々しいこと。

 辰さん「こりゃたまらん、とても寝ちゃいられん」、静かにさせようと若い衆(し)を呼ぶ。「へえへえ」と重ね返事でやってきた若い衆は理屈っぽく、「・・・当今はどちらも不景気で、夜中に芸者衆でも上げて騒いでおりますと、近所の同業者に対しても、手前どもの営業隆盛を誇るというというようなことに・・・」と、どんちゃん騒ぎを止めさせようとは全く思っちゃいない生意気な口ぶりだ。

 頭に来た辰さんが、「うるさくて寝られないから帰る」と言うと、若い衆「わたしにあなたが帰るというのを止める権利はございませんが、後で紅梅さんになぜ帰したと言われた時、弁解の余地がございません」ときた。

 どうしても帰ると言う辰さんに、若い衆は仕方なく紅梅を呼ぶ。紅梅は初めは「あらいやだよ。何だって今頃帰るの・・・」と引き止めていたが、帰ると言って聞かない辰さんに、「ふーん、それじゃあ仕方がない。お帰んなさい。お帰りよ」と開き直った。さらに「そんなに静かなとこがよかったらどっかのお寺にでも泊まりなよ」と追い打ちをかけた。

 辰さん「・・・二度とてめえのところへなんぞ来るもんか」、「何だい、一人でいい男がって、こっちにゃ、いい人がついてるんだよ」、「なんだ、この女(あま)!」と手を上げそうになるのをこらえて、階子段(はしご)を下りて見世を出た。

 帰ると言ってもこの時間、どうしようと向こうの見世を見るとくぐり戸がすこし開いている。寝ずの番のおやじに、「寝るだけでいいから、あげてくれ」と頼むと、おやじは辰さんのことを知っている。さらに若柳というおいらんが辰さんのことを噂していると言う。

 捨てる神あれば何とかで辰さんはこの見世にあがる。若柳は喜んで辰さんは大もて、次の晩も、その次も、すっかり辰さんは若柳のところへ通うことになった。

 ある日の昼間、辰さんは家にいると、「ジャンジャンジャン・・・」と半鐘が響いた。火事は吉原方向だ。吉原の昼間の火事は大きくなる。若柳に実を見せなきゃと、大急ぎで吉原に駆けつける。

 ちょうど吉原の女たちは眠りについた頃で、寝ぼけ眼(まなこ)、着の身着のまま、異様な格好で逃げ惑っている。中には火事場の糞力か、尻をはしょって、葛籠(つづら)を背負って駆け出して来るという石川五右衛門みたいな女郎もいる。

 辰さんがおはぐろどぶまで来ると、どぶに落ちてもがいて助けを求めている女がいる。これを見た辰さんが助けてやろうと手を差し出し、ひょいとその顔を見ると、これが紅梅だ。

辰さん 「てめえか、ざまあ見ろ、さんざん俺をこけにしやがって。沈むだけ沈んで泥をうんと食らっちまえ」

紅梅 「辰さん、お願いだから助けておくれよ。今度ばかりは首ったけだよ」



        



古今亭志ん生の『首ったけ【YouTube】





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