★あらすじ 京都の得意先をしばしば訪れる大阪の商人。いつも帰りがけにおかみさんが、「何にもおへんのどすけど、ちょっとお茶漬でも」と、言ってくれるが茶漬など出てきたこともなく、食べたこともない。
毎度のことでいい加減腹が立ってきた大阪の商人、「よし、一ぺんあの茶漬を食てこましたれ」と、商用にかこつけて得意先にやって来る。主人は留守で上がり込んで待つことにする。おかみさんと雑談をしながら、茶漬けのことを匂わせた会話をするが、おかみさんは気づいているが、知らないそぶり。
お昼時になって商人「・・・この辺に何かちょっと食べるもんとってもらえるような店おまへんやろか?」と、鎌を掛ける。おかみさん「この辺には何にもあらしまへんのどっせ。京極の方へお行きやしたら、結構なお店がぎょうさんおすねんけど」、こりゃだめだと商人、「・・・もう何か所か行きたい所がございますので、できれば帰りにまた寄せていただきとう存じます。ご主人がお帰りになりましたらよろしく・・・」。
おかみさん「・・・えらいすんまへんなんだ。・・・おの何にもおまへんけどちょっとお茶漬でも」、この一言を待ってましたと、「さよか、えらいすんまへんなあ・・・・」と居座った。しまったと思っても後の祭りおかみさんは台所へ行ったが、あいにく今日はご飯の残りがほとんどない。おひつの底に残っているご飯をかき集めて茶碗に盛り、漬物をそえて商人の前へ、「ほんまに何にもおへんのどっせ。まあ、お口よごしに」と、さし出した。
何だこりゃと思ったが、「えらいすんません、ほら遠慮なしに・・・」と食べ始め、「・・・いい漬物でんなあ・・・」、なんて褒めているうちにすぐに無くなってしまった。「お代わりを」と言いたいが、おかみさんは知らん顔で後ろを向いたままだ。こっちを向かそうと、「・・・このお茶碗は清水焼でっしゃろ。いい茶碗でんなあ。土産に五つほど買うて帰りたい。この茶碗はどこでお求めになりました」、と空の茶碗をおかみさんの目の前へ突き出した。おかみさんも負けん気でおひつを突き出して、
「これと一緒にそこの荒物屋で買うたん」
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