★あらすじ 町内の若い連中が集まってわいわいガヤガヤ。誰かが人は十人十色という、各々の好きな物は何かと聞くと、酒、女子(おなご)、羊羹、蓮根の天ぷら、鯛の茶漬け、おぼろ月夜?、よく聞くと月夜に大金を拾い、落とし主が現れず自分の物になるなんて、獲らぬ狸の都合のいい話で、本当は塩えんどうが好きという。
今度は嫌いな物、こわい物の話だ。蛇、なめくじ、ムカデ、芋虫、蟻(あり)なんてたわいもない物ばかり。狐が嫌いというやつ、助けた女狐がお礼に人を化かす所を見せてやろうと誘われ、逆に化かされて馬の尻の穴を覗かされたからという。
ワイワイ言っている所へ入って来た連中の先輩のオヤジさんの「こわい話」。死んだ婆さんが、鍋一杯に炊いたのりをつけて、浴衣(ゆかた)を洗った。あの浴衣はほんまに「こわかった」で、みなずっこける。
オヤジさんは今度は本当に怖い目にあった話を始める。若い頃、南農人町のお祓い筋付近のおじの家からの夜更けの帰り道、農人橋で身投げをしようとする女を助けようとしたが、女は死にたいの一点張り。むかっと来て、後ろからぽんと押して川へ突き落した。
女は川に落ちたが死にきれず、岸に上がってじたじたじたとオヤジの後をつけ出した。気づいたオヤジは、辻堂の賽銭箱の後ろに隠れて女を待ち伏せして捕まえて安堂寺橋から投げ込んだ。
ところが、自分が川にはまってしまい、橋の下の舟に頭をぶつけ目から火が出た。その火で足をやけどして、あまりの熱さに「熱い!」と叫んだ声で目が醒めた。櫓炬燵(やぐらごたつ)に入って寝てしまって見た夢の話で、またずっこけたが川にはまってずぶ濡れになったと思ったら、寝小便をたれていたのはホンマだったと。
隅で黙って聞いていた光さんに嫌いな物、こわい物を聞く。光さんは口に出すだけで、震えがくるほどこわい物があるという。連中が問い詰めると、これがおまん、饅頭という。光さんは顔を蒼ざめ震えだして家に帰ってしまう。
連中は面白がって、色んな饅頭を買ってきて、光さんの家に放り込んで光さんが転がり回ってこわがるのを見て楽しもうという悪巧みだ。早速、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)、栗饅頭、そば饅頭、田舎饅頭、けし餅、太鼓饅頭、へそ饅頭を買い集め、光さんの家へ。
連中はやっと震えが収まったという光さん目がけ、お見舞いだと言って饅頭を投げ込む。すぐに光さんは七転八倒してこわがると思いきや、部屋の中は静かだ。
誰かが光さんはあまりの怖さで死んだのだと言い出す。光さんはびっくり死で、皆、人殺しの連帯責任。新聞に「饅頭殺人事件、友達共謀して佐藤光太郎なる男を饅頭にてあん(暗)殺す」と載るだろうと言う。
当の光さんは部屋中の饅頭を見て、連中がまんまと計略に引っ掛かったので大満足。連中が帰ってからゆっくり食べるつもりだったが、我慢できずに薯蕷饅頭から食べ始める。
家の中の様子がおかしいのに気づいた連中は中を覗いてびっくり、だまされたことが分かる。
飛び込んで、「おい、光っつあん あんたのほんまにこわいのは何んやねん」
光さん「今度は熱〜いお茶がこわい」
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