★あらすじ 落語に登場する泥棒はどれも似たような者ばかりで、
子分 「頭(かしら)、今日はこの新米連れて行きまんのか?」
頭 「そや、こいつこの町内詳しいっちゅうこと聞いたんでな。そやろ新米?」
新米 「へぇ、わてなぁ、この隣りの町内に長いこと住んでましたんでな、この町内のことやったら、詳しおます」
頭 「この町内で金のある家はどこじゃい?」
新米 「そらもぉ斉藤さんとこですわ。あすこはもお金だらけですわ。土間入ったとっから金が散らばったる」、「それなんの商売何や?」
新米 「古金屋でんねん。自転車の壊れたやつとか、鉄屑やとか・・・」
頭 「そんな古金を盗んでどないするっちゅうねん。金言うたら銭のこっちゃ。財産家はどこや」
新米 「あぁ、それなら田中はんですわ。お爺さんの代からのこの辺一帯の大金持でな。地所も持ってるし、借家も何十軒もおまんねや」
頭 「商売は何をしてんねん?」
新米 「その家賃やとかな、地代の上がりで商売なんかせんと裕福に暮らしてはりますわいな。息子はんが柔道に凝ってしもて道場こしらえてなぁ、いつも腕っ節の強い若い衆が十人ぐらいゴロゴロしてまんなぁ」
頭 「そんなとこへ入れ るかアホ。三人だけやないかい、もっと弱いとこないのんかい?」
新米 「弱い者いじめは立派な泥棒のすることではおまへん」
頭 「何を偉そうなこと抜かしやがって、強いとこ入ったらすぐに捕まってしまうがな」
新米 「へぇ、弱いとこやったら、寺田はんでんなぁ。七十越したお爺さんとお婆さんと二人だけでんねん」
頭 「で、金はあんのんかい?」
新米 「何でも、町内の人が何ぼかずつ出 し合おて養うてるっちゅうことは聞いてまんねん」
頭 「アホか、お前わ、頼りにならんやっちゃ。仕方ないよってわしが目星つけた家に入ろう」
子分 「どこでんねん?」
頭 「実はこの前の眼鏡屋や。今こないして雨戸締めてるけどな。こういう家は案外金持ってんねや。主人夫婦と子どもが一人と、丁稚が一人ぐらいしかおらへん。・・・ちょうどえぇ、ここに節穴が開いてるわい。おい新米、こっからガミはれ」
新米 「へぇ?この節穴に紙貼りまんのん?」
頭 「アホ、盗人の符丁じゃ、中を覗き込んで調べる、偵察をするんじゃ、これを”ガミはる”ちゅうねや、 覚えとけ」
新米 「ほんだらこっから覗いたらよろしいんで?」
一方、眼鏡屋の中の丁稚さん、これが感心な小僧で、家の者が寝てから小さな灯りをとぼして一生懸命に習字の稽古をしている。表でゴソゴソ話し声が聞こえるもので様子を伺っていると、泥棒仲間が忍び込もうとしてる。
知恵を働かせた小僧さん、遠眼鏡、遠くの物が近くに見える望遠鏡を節穴に突っ込んで顔に筆で髭(ひげ)を書いて、そばで寝てた猫をつかんで節穴の前に立ち上がった」
頭 「早よ、覗いてみぃ、新米」
新米 「・・・か、頭!髭もじゃの大入道が、虎つかんで立ってまっせ」
頭 「何を寝ぼけてけつかんねん。お前替わってガミはれ」
手下 「どけ、アホ・・・」、小僧さん今度は眼鏡を物が七つに見える将門眼鏡に付け替えた。平将門が七人の影武者を従えていたことから”将門眼鏡”というやつだ。
こんどは小僧さんは真面目な顔して習字を始めた。
手下 「何やこれ、こんな夜中に子どもが七人並んで寺子屋みたいに手習いしてまっせ、あれ、そばに一匹ずつ猫が付いてまんねん・・・ おかしな猫やなぁ、一匹が背伸びしたら、みな揃ろうて背伸びしてまっせ」
頭 「お前ら、何を寝ぼけてんねん、そこどけっ、今度は俺がガミはったる・・・」、小僧さん頭が来たなと察知して、今度は遠眼鏡を逆さまにして節穴にあてがった。
新米 「どおです頭、化けもん屋敷だっしゃろ?」
手下 「頭、子どもが七人、手習いしてまっしゃろ?」
頭 「いやぁ~、今、 何時ぐらいやろなぁ?」
手下 「最前どっかの時計が三時を打ちましたがなぁ 」
頭 「三時? ここの家へは入れんわい」
手下 「何でだんねん?」
頭 「奥へ行くまでに、夜が明けるわい」
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