「木乃伊取り」(みいらとり)

 
あらすじ 大店の一人息子で道楽者の若旦那が吉原へ遊びに行ったきり帰らない。あちこちと探して見ると角海老に居続けしているという。

 大旦那は連れ戻すために番頭の佐兵衛を吉原へやるが「木乃伊取りが木乃伊になって」、一緒に遊んで五日も帰って来ない。

 今度は鳶の頭(かしら)に頼む。「腕の一本くらい叩き折っても連れて帰る」と威勢よく店を出る。途中の日本堤幇間一八につかまり、吉原へ遊びに行くのかと勘違いされ、しつこく取り巻くのを振り切って角海老へ乗り込む。若旦那に「どうかあっしの顔を立てて」と掛け合っているところへ一八が「よっ、頭、どうも先ほどは」と入って来た。あとはドガチャガで、番頭も角海老の虜(とりこ)になってこれも七日経っても未だ帰還せず「木乃伊2号」の誕生だ。

 大旦那夫婦はあんな道楽者になったのはお前のせいだとなすりつけ夫婦喧嘩を始める始末だ。そこに現れたのが飯炊きの清蔵。「おらが迎えに行ってみるべえ」と言いだす。「お前は飯が焦げないようにしてりゃいいんだ」と叱っても、「もしも泥棒が入って旦那がおっ殺されるちゅうとき、台所でつくばってる分けには行かなかんべえ」となるほど正論だ。清蔵は「首に縄をつけても連れ帰る」と、なり振り構わず吉原へ突進だ。

 角海老へやって来た清蔵は止める若い衆を張り倒すと脅しつけ、座敷に乗り込んだ。番頭と頭をどやしつけ、お袋さんが出掛けにそっと渡した金の入った巾着を見せ、寝ないで泣いて若旦那の帰りを待っていると、泣き落としにかかったが、若旦那は巾着だけ置いて帰れとつれなく薄情だ。

 清蔵があんまりしつこいので若旦那は、「親父に成り代わって暇をやるから帰れ」と啖呵を切った。怒った清蔵は「暇が出たら主人でも家来でもねえ。腕づくでもしょっ引いて行く」と毛むくじゃらな太腕をまくり上げた。

 こんな場所で使用人と喧嘩沙汰とは野暮なこと、若旦那は「分かった帰る」と一歩引いて、まあ機嫌直しに一杯と清蔵に酒を勧める。帰ると聞いて喜んだ清蔵、酒は嫌いではない。美味そうに一杯、また一杯。若旦那はなじみの花魁の「かしく」を清蔵の今日の敵娼(あいかた)にする。

 かしくからお酌をされ、しなだれかかられ、もうデレデレの骨抜き、すっかりご満悦。グデングデンに酔っ払って、完全にだらけてしまった。もう潮時と、

若旦那 「おいおい、清蔵、そろそろ引き上げよう」

清蔵 「あぁ 帰(けえ)るって? 勝手に帰るがいいだ。おらもう二、三日ここにいるだよ」


     

角海老楼の時計塔は、八官町(銀座8丁目)の小林時計店、外神田の大時計(京屋)と並んで東京の名所としても有名で、樋口一葉の「たけくらべ」に 「朝夕の秋風身にしみ渡りて・・・角海老が時計の響きもそぞろ哀れの音を傳へるやうに成れば・・・」とある。大店の若旦那と言えども、木乃伊取りと居続ければ、店の身代は持たなかったろう。


三遊亭圓生の『木乃伊取り【YouTube】



日本堤


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