★あらすじ 深川界隈の家々を回って水を売っている水屋。一日も休めず、水桶は重たいし、儲けなどはほとんどなく貯えもない。年を取って来てきつい仕事はやめて何か商売でも始めたいと思っちゃいるが元手もない。
その年の暮れ、当たるはずもないと思いながらも湯島天神の富くじを一枚買った。これが千両の大当たり。春まで待てば千両全部貰えるが、すぐには八百両だという。八百両で御の字、商売の元手にも十分過ぎると受け取って長屋に帰った。
さてこの金をどう使うかより、どこへ置いておこうかで悩み始める。押入れの葛籠(つづら)の底、神棚の上など、どこへ置いても不安だ。と言っても持ち歩くには重過ぎる。思案の末、畳をはがし、縁の下の丸太に太い釘を打ち、そこに八百両を包んだ風呂敷包をぶら下げた。
さあ、これでひと安心。水屋の代わりが見つかるまで水屋を続けようと寝床に入るが、泥棒に入られたり強盗に襲われたりする夢を見て、まんじりともしない。
翌朝、長い竿(さお)を縁の下に差し入れて風呂敷包に当たるのを確認してから商売に出る。長屋の路地を出る前から行き交う人たちが怪しく見えてなかなか商売に行けない。いつもの時間に来ない水屋を行く先々のお得意の家々は、「遅いじゃないか!今頃まで何してんだ・・・」と怒らっれぱなしだ。
回り終えて疲れて長屋へ帰って、竿で縁の下の風呂敷包を確認するのが唯一の楽しみではあるが、心配事、苦労でもある。そして寝ると八百両盗まれたり、殺されたりする悪い夢ばかり。次の日、次の日も遅刻して家々を回る日が続く。早く代わりを見つけて辞めたいがなかなか見つからない。
ある日、水屋の前の長屋のヤクザ者が、毎日、水屋が朝と晩に縁の下に竿を入れていることに気がつき不審に思った。水屋が仕事に出掛けた留守を狙って忍び込んで、畳をめくって見ると縁の下に風呂敷包がぶら下がっている。開けてびっくりの大金に、「しめた!」とヤクザ者は風呂敷包を抱えてとんずらしてしまった。
その晩、疲れて帰って来た水屋、いつものように縁の下に竿を入れても何の手応えもない。あわてて家の中に入ると畳はめくれたまま、風呂敷包は消えていた。
水屋 「・・・ああ、これで苦労がなくなった」
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