「ぬの字鼠」
★あらすじ 狐はお稲荷さんのお使い、蛇は弁天さん、百足(むかで)は毘沙門天、鼠は大黒さんのお使い。大黒さんの米俵をかじられそうな気もするが。お寺のおかみさんを大黒さんと呼んでいた。昔は坊さんの肉食妻帯には厳しいものだった。
ある寺の和尚さん、よる年波で滋養のために鰹節を食べていた。小僧の珍念に庫裡の隅の目立たない所で鰹節を削るように言ってあるのに、珍念はお構いなし、開けっ放した所で堂々と小刀で鰹節を削っている。これに気づいた檀家の近江屋さんが見て見ぬふりをして通り過ぎようとしたら、珍念は小刀を後ろに隠し、鰹節を前に突き出し、「この小刀よう切れまっしゃろ」、近江屋は困って、「珍念はん、小刀はええが、後ろの鰹節で怪我せんように」と、通り過ぎた。
珍念は表の花屋で、「・・・わたしはほんまはこの寺の和尚の子どもじゃ。お母さんは上町に住んでいる。・・・」と、言いふらしている。事実とはいえ困り果てた和尚は珍念を懲らしめるため、本堂裏の墓地のそばの木に縛りつけた。
珍念は大声を上げて泣いても表には聞こえず、誰も助けに来てくれない。珍念はこの間見た、金閣寺の芝居を思い出す。縄でしばられた雪姫が回りに落ちている桜の花びらで鼠の絵を描くと、その鼠が抜け出して縄を食い切って雪姫は逃げて助かった。
珍念は鼠の絵は描けないので足で回りの落葉を集め、鼠の字に似ている「ぬ」の字を描いて、「どうか”ぬの字鼠”よ、この縄を食い切ってくれ・・・」と願った。珍念の一心が通じたものか、落葉のぬの字からすーっと鼠が抜け出し縄を食い切った。
今泣いた烏の珍念、「しめた、ありがたい、助かった。・・・・こら夜中まで遊びにいてこましたろ」と、賽銭箱をひっくり返して銭を握りしめて出て行ってしまった。
珍念のことが心配で物陰から一部始終を見守っていた寺男の権助が和尚にあわてて注進する。
権助 「和尚さん、えれえことでごぜえます」
和尚 「どなんしたんじゃ」
権助 「・・・芝居で見た雪姫はんが・・・珍念はんが足で落葉でぬの字を描きましたら、それが鼠になって抜け出して縄食い切って・・・珍念はんどこかへ行ってしもうたで」
和尚 「えっ、珍念の描いた鼠が・・・、きっと大黒(珍念の母)が使わせたんじゃろ」
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『福娘童話集』より
爪先鼠・雪姫(『金閣寺(祇園祭礼信仰記)』
雪姫の祖父という雪舟が少年時代に預けられた宝福寺での『雪舟の鼠』の話。
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