「もう半分」

 
あらすじ 日光街道千住のやっちゃ場そばの、枡で量った酒を茶碗に注(つ)いで吞ませる注ぎ酒屋。今日も店じまい時に近くに住む棒手振りの八百屋の爺さんがやって来た。いつもの通り茶碗に半分つがせ、呑み終わると、「もう半分ください」と言って、数杯お代わりして少し酔って帰って行った。

 酒屋の亭主が爺さんの座っていた樽を見ると、ずしりと重い風呂敷包みが忘れてある。中を見ると五十両の大金だ。正直者の亭主は身重の女房にこのことを話し、爺さんの後を追いかけて届けてやろうとするが、女房は、折角転がり込んだ大金だ、しらばっくれて猫糞(ねこばば)してしまおうと亭主をそそのかす。

 そこへ風呂敷包みを忘れたことに気が付いた爺さんが、あわてふためいて戻って来た。女房が前に出て、そんな物はなかったと言い放す。爺さんはあの金はが吉原に身を売ってこしらえてくれた金で、元手にして棒手振りはやめて八百屋の店を持つのだと言う。それを聞いても女房は知らないと突っぱね、亭主も仕方なく女房の言うままだ。

 爺さんはあきらめて、しょんぼりと店を出て行った。その後ろ姿を見た亭主は、いたたまれずに爺さんを追い駆ける。ちょうど千住の大橋まで来た時、橋から川へ身を投げる人影、続いてザブーンという音がした。「南無阿弥陀仏」と手を合わせて後悔したが後の祭り。店へ戻った亭主に、女房は爺さんが死んでしまえば金は自分たちの物と喜ぶ冷酷さだ。

 すぐに女房は赤子を産むが、これが歯が生えて白髪のある薄気味悪い男の子で、あの爺さんそっくり。赤子を見た女房は恐怖のあまり血が昇り死んでしまった。

亭主は手に入れた五十両で、店を大きくし雇い人も増やして繁盛する。赤子は桂庵から婆やを頼んで世話をさせるが、5日と持たずヒマを取ってしまう。

 今日もまた婆やがやめると言い出した。困った亭主が手当を増やすから居てくれと頼むが、手当は充分だが、赤ん坊が怖いという。夜更けて八つの鐘を聞くと赤子が起き上がり行灯のそばに行って油を舐めるのだという。今夜自分で様子を見るからと婆やをなだめ、亭主は自分の目で確かめることにする。

 その夜、八つの鐘が鳴ると、赤子がむっくりと起き上がり、ちょこちょこと行灯の所へ行き、行灯の油を舐め始めた。これを見て、ぞぉーとして来た亭主が棒を持って近づき、「こん畜生め!」と打ちかかろうとすると、赤子がこちらをジロッと見て、油皿をひょいと差出して、

「もう半分ください」


       
      『東京油問屋史』より


古今亭志ん生の『もう半分【YouTube

   

やっちゃ場跡 
地図

江戸時代から続いた青物市場跡

   やっちゃ場風景



千住の大はし」(名所江戸百景)

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