★あらすじ 船場の商家に丹波貝野村の庄屋家から歳は18で器量良しのおもよという女中が奉公に来た。若旦那は今年22で商売上手、男前で独り身だ。「今業平」と「小町娘」の二人はひそかに思いを寄せるようになる。ある日、若旦那は商用で九州へ旅立った。その間におもよは国元から母親が病気の知らせがあり、暇を取って貝野村に帰った。
九州での商用が済んだ若旦那はおもよに会うことを楽しみに急いで船場に戻るが、おもよが貝野村へ帰ったと知りがっかりして病気になってしまう。大旦那はあちこちの医者に診せるが何の病気か分からない。
ある日、医者が診ている時に、若旦那が「おもよ」とつぶやいた。医者はすぐに恋患いと察したが、「お医者さまでも有馬の湯でも・・・・」で、如何ともしがたい。衰弱している若旦那はこのままでは命が危ないと大旦那に報告。大旦那は明晩までにおもよさんを連れて来るようにと棟梁の甚兵衛さんを急きょ貝野村へ派遣した。
貝野村ではおもよの看病で母親はすぐによくなったものの、今度はおもよが若旦那と同病で寝込んでいたが、甚兵衛さんの話を聞いた途端にすっかり元気になって、「すぐ、大阪へ行きます」で、甚兵衛さんは大阪へとんぼ返りだ。
戻ったおもよを見て若旦那もすぐに起き上がり、差し向かいでがつがつと飯を食べ始めた。大旦那は二人を夫婦にせねばと思うが、一人息子と一人娘というのがネックだ。庄屋家の発案で、若旦那を入り婿とし一日だけ貝野村に迎え、その後で大阪へ嫁入りさせるということとなった。
早速、若旦那とおもよ、仲人の甚兵衛さん、店の若い者の四人連れで貝野村へ行って婚礼の運びとなった。その翌朝、庄屋家ですっきりと晴れ上がった田舎の空を見た若旦那は、「ここへ手水を廻してくれ」と女中に頼む。「はぁ」とは言ったものの「ちょ〜ず」が分からない女中は庄屋の旦那、料理番の喜助にも聞くが分からない。
庄屋の旦那は喜助に寺のお尚に聞きに行かせる。さて、お尚さんも知らないとは言えず、丸い頭をひねった末に、「ちょ〜」とは長い、「ず」 とは頭、つまり「長い頭を廻す」こっちゃと、珍解答を披露した。
これを聞いた庄屋さん、すぐに村一番の長頭(ちょうず)の人選だ。そして村はずれに住む福禄寿、外法頭の市兵衛さんに白羽の矢が立った。こんな頭でも村の役に立つことならと、市兵衛さんは喜んで庄屋宅へやって来て、若旦那の座敷の前で長頭をグルグルと廻し始めた。びっくりして面白がる若旦那だが、おもよさんは顔から火が出るほどの恥ずかしさで、若旦那を連れてさっさと大阪へ帰ってしまった。
おさまらないのが庄屋さんだ。何が何やら良かれと思ってやったことが、田舎もんと笑われるとは庄屋の面目丸つぶれ、貝野村の恥さらしで、おもよにも申し訳ない。「ちょ〜ず」の正体を暴き、庄屋家の威信を回復し、村の恥辱をそそがなければ、ご先祖へ顔向け出来ないと喜助と二人、大阪へ旅立つ。
道頓堀の大きな宿屋へ泊った翌朝、縁側へ出て来るなり女中を呼んで、「ここへちょ〜ずを廻しとくなされ」、しばらくして女中は金ダライにお湯をたっぷりと入れて、塩と歯磨き粉を皿の上乗せ、房楊枝を添えて持ってきた。
さて長頭と違って廻し方の分からない二人、全部金ダライに入れて房楊枝で掻き回し、庄屋さんが先にゴクッ、ゴクッと飲んで何とも言いようのない味でしかめ面をして、喜助に渡した。「大阪へ来たお陰で、こんな結構なもんいただけまして」と有り難く頂戴した喜助は残りを一気にたいらげた。
すると女中さんがまた、金ダライへいっぱいのお湯と塩と歯磨き粉と房楊枝の手水一式を持って来た。
庄屋 「女中さん、これ何でんねん?」
女中 「こちらのお方のでおます」
庄屋 「えぇ〜? もぉ一人前おまんのんか・・・・あとの一人前は、お昼に頂戴いたします 」
|