「向うづけ」


 
あらすじ 一昔前は字の書ける人が少なかった。今は葬式の参列者は自分で名前を書くが、昔は帳場の人が来た人の名前をつけた。

喜六が家に戻ると、女房が世話になっていた大店の隠居が亡くなったという。女房に線香代をもらい、くやみを教わり、向こうでは何でも手伝うように言われて喜六は大店へ行く。

大店の御寮人さんから阿倍野の斎場の参列者の帳付けを頼まれた喜六は、紋付きに羽織袴に着替えるために長屋に戻る。帳付けを頼まれたと聞いた女房から、あんたは字が書けない無筆だと言われ、やっと事の重大さに気づかされた喜六は、北海道か九州に逃げようなんて言い出した。帳場は一人ではないと聞いた女房は、喜六に斎場へ早目に行って、綺麗に掃除し、帳場を準備万端整え、後から来た一人に、自分が無筆なことを白状して帳付けを頼むように行って喜六を送り出す。

斎場へ着くと帳場はもうすっかり準備、整理され、もう一人の帳付けの源兵衛はお茶、お菓子まで用意して、首を長くして喜六を待っていた。源兵衛も無筆で喜六に帳付けを頼もうと思っていたのだ。二人は相談して今日の帳付けは来た人が自分の名前を書く、「銘々づけ」、「向うづけ」にすることにする。

さあ葬式の参列者が続々と来始めた。「銘々づけ」と聞いて文句を言う者もいるが、「故人の遺言で」と切り抜ける。まさに「死人に口なし」は二人には最高な名言だ。
やっと参列者も途切れ、ほっとして店じまいに取り掛かる二人だが、法被姿の職人の手伝い(てったい)の又兵衛が仕事場から駆けつけて来た。むろん無筆の御人で「銘々づけ」など無理な話だ。
又兵衛は自分が葬式へ来たことはどうなるのかと問い詰める。
すると源兵衛が「あんたが来たことは内緒にしときまひょ」








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