「崇禅寺馬場」

 
あらすじ 怠け者の喜ィ公甚兵衛さんの家へやってくる。
喜ィ公 「甚兵衛はん、寝てて食われるというようなこと、でけまへんやろか」

甚兵衛 「それやったら、弁当持って池田の裏山へでも行て、弁当食うて、山の中で寝てたらええ」

喜ィ公 「ほなら、どうなります?」

甚兵衛 「狼が出てきて食うてくれるわ」

喜ィ公 「そんなん、かなわん。働かいで食うていける方法でんがな」

甚兵衛 「そうか、それならわしの手下になれ。わしは盗っ人や。こう明かした以上、よそで喋られたら命にかかわる。お前、仲間に入らんちゅうのなら殺してしまうぞ!」

喜ィ公 「そんな恐い顔しなはんな。ほなら、手下になりまんがな」

 その夜遅く、表の戸をドンドン叩いて、
喜ィ公 「甚兵衛はん、甚兵衛はん! 早よ盗っ人に行きまひょ」

甚兵衛 「こら、大きな声出すな。こっちへ入れ。・・・なんや、お前、紋付に袴で」


喜ィ公 「へえ、今晩は盗っ人稼業の開業式やもんで、床屋行って、風呂行って、これ質屋から受けだして着てきた」

甚兵衛 「アホかお前は、この黒い筒袖の着物を着ろ。・・・そな、ぼちぼち出掛けるぞ」

喜ィ公 「甚兵衛はん、なにしてるねん?」

甚兵衛 「盗っ人が入らんように戸締りしてんのや」

喜ィ公 「入るどころか、今、二人出よるがな・・・どこへ行きまんねん」

甚兵衛 「崇禅寺馬場で追いはぎをやるんじゃ。あの辺りは寂しいさかいな」、崇禅寺馬場へとやって来て二人は藪の中に隠れた。

甚兵衛 「旅人が来たらお前が先に言うんやぞ、おい、ここをいずくと心得る。明けの元朝から暮れの大晦日まで、ここは頭(かしら)の張り場所。知って通れば命はない。知らずに通らば命ばかりは助けてやるが、身ぐるみ脱いで置いて行け、四の五と抜かすと、腰の二尺八寸、ウヌの土手っ腹にお見舞い申すぞ、こない脅かすんや」

喜ィ公 「そんな、よう言いまへんで、四、五日待ってもらわなとても覚えられん・・・」、ぐずぐず言っているうちに二人連れの旅人が通り掛かった」

甚兵衛 「何してんのや、早よ出んかい」と喜ィ公の背中を押し出した。ヨロヨロと旅人の前に出て、

喜ィ公 「お~い、旅の人・・・・」、ガタガタ震えてわけのわからん口上を並べている。

旅人 「おもろいやつが出てきよったで・・・」と、笑いながら通り過ぎようとすると、甚兵衛さんが出て来て、さすがは頭、二人を身ぐるみ剥いでしまった。

 もうひと儲けと待っていると、三度飛脚がやって来た。こやつは旅慣れしていて、追いはぎなんぞはちっとも恐がらない。アベコベに二人を取り押さえて丸裸にしてしまった。

甚兵衛 「こら、張った場所が悪かったわい。崇禅寺馬場じゃ、返り討ちにあった」







崇禅寺

落語『鈴ヶ森


585(2017・11)



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