「二人癖」(のめる)

 
あらすじ 誰にでも癖はあるもので、「なくて七癖」なんて言います。「のめる」が口癖のが、「つまらん」が口癖の辰ちゃんと賭けをする。お互いの口癖を言ったら1円の罰金を払うというものだ。すぐに男は辰ちゃんを策略にかけ「つまらん」と言わせそうになったが、気づかれてそうは問屋が卸さない。

 何とか辰ちゃんに「つまらん」と言わせたい男は甚兵衛さんに知恵を借りに行く。甚兵衛さんも面白がり、「田舎の親類からもらった大根百本を漬けもんに漬けよおと思うが、二斗樽一つに百本の大根、詰まるかな?」と辰ちゃんに聞いて見ろという。「そらつまらん」と言うだろうという計略を授ける。

 早速、男は辰ちゃんの所へ行って、この作戦を実行するが、危うく見破った辰ちゃんは「入らん」、「そこが抜ける」と切り抜け、「今日はお前の相手はしてられん、兄貴の新築祝いに行くんや」で、男は思わず、「兄貴とこ新築祝いか、一杯のめるな」で呆気なく、1円取られてしまう。

 くやしくて仕方がない男、どうしても仕返ししなくては今晩は寝られないと、また甚兵衛さんに相談に行く。甚兵衛さん今度は辰ちゃんが好きな将棋を使っての作戦を編み出した。真ん中の王を角と金と歩が三枚で詰ますのだが、これは絶対詰まない詰将棋だ。これを一生懸命考えているような振りをする。辰ちゃんは横から口を出して来て一緒にあれこれと指して考えるだろう。頃合いを見計らって、「どうや、詰まるか?」と聞けば、詰将棋しか頭にない辰ちゃんは、「こら、つまらん」とうっかり言うという寸法だ。

 夕方に風呂に誘いに来た辰ちゃんに男は詰将棋作戦で大成功、ついに辰ちゃんは「こら、つまらん」と発した。喜んだ男は辰ちゃんの胸倉を掴み、「さあ、1円」と催促する。

 やっと事情が呑み込めた辰ちゃん、「ほなお前、あれを言わすために、こんなわけの分からん詰め将棋考えさしやがったのか、えらい男やなぁ、恐れ入った。感心したさかい倍の2円やるは」

男 「ありがたい、一杯のめるわ

辰ちゃん 「それで差し引きやがな」


       



旧田中家前の漬物樽は大根4千本以上入る(詰まる)そうだ。
板橋区立郷土資料館


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