「音曲質屋」


 
あらすじ 昔は質屋さんは庶民の生活に身近で密着していた。「七つ屋」、「五二屋(ぐにや)」、「三四家」、「一六銀行」と愛称?がいくつもあるのもこれを物語るか。

 川柳にも、「亭主の着物着て 質を受けに来る」、「質屋では利が喰い うちでは蚊に喰われ」(蚊帳を質に入れた)、「女房を質に入れても初鰹」、「初鰹女房は質を受けたがり」、「八月目に流れて女房くやしがり」(質流れと、流産を掛けている)、「抜いても見ぬに番頭百投げる」(侍のみじめさ、商人、金の強さか)

 つい最近では「質屋にて愛もメッキと知らされる」(第三回ゴールド川柳)なんて痛快作もある。♪「・・・質屋通いは序の口で、退職金まで前借し・・・」、これも痛恨作か?

 今日は伊勢屋質店の月に一度の芸事で金を貸す、その名も音曲質屋の日。主人はこれが楽しみで、おかみさんの三味線の調子もいいようだ。

 まずは番頭が口上で、「今日は芸事を披露していただき、その出来の良し悪しに応じてお金をお貸しいたします。いくらお貸しするかは当店の主人が一人で決めさせていただきます。質に取った芸事はお貸ししたお金が返済されるまでは一斉、演じることは出来ずに、封印ということになります」

 さあ、最初に舞台に上がったのは太神楽をやるという男、海老一兄弟の曲芸を期待した主人だが、なんとその芸とは指先で扇子を一回まわすだけ。おまけに手のひらに扇子を立てて、一万回数えるなんて言い、なんと一、十、百、千、万と早口で数えただけで芸には程遠いお粗末。主人も呆れて二文渡し、「お前さんの芸は封印しないよ。どこでやったって構いやしないから」と、投げやりだ。

 次の男は下を向いて出て来て、もじもじしている。
主人 「お前さんの芸は何だね?」

男 「出来る芸なんぞは持ち合わせておりませんが、ぜひ旦那さんにお金を貸していただきたいと・・・」

主人 「そりゃあ駄目だよ、今日は何か芸事をやってお金を貸す日なんだから。明日はいつものように質草で貸すからまたお出でなさい」

男 「へえ、・・・それが質に入れる物もないような・・・先月に患っていたかみさんが死んじまって、残された三人の子どもと、寝たきりの年老いた父親の世話で仕事にも行けず・・・食う物もなくなって・・・」と泣き出す有様。

主人 「分かった、分った、もういい、もういいから・・・」と、番頭に一分包ませ、

主人 「これは返さなくともいいから」と差し出した。男は受け取った途端にニコニコ顔になって、

男 「へへへ、これがあっしの芸で・・・」

主人 「なんだ今のは芸かい。泣き売で商売してるんじゃないかい。それなら質に取ることもできやしない」

 次に入って来たのはべれべれに酔っぱらた熊さん、宴会の席で余興でもやっているのかと思ったのか、みんなの前へ立ったのはいいけど、何も出来ずにみんなから「早く芸をやれ」とせがまれ、「ゲェー」とやったからたまらない。一番近くにいた三味線のおかみさんは気分が悪くなって逃げ出してしまった。

主人 「今日はろくなものが出て来ないね。芸の間日(魔日か?)、芸不作の日のようだからそろそろお終いにしようか」

声色男 「ちょっとお待ちを。手前は声色をご披露いたします」

主人 「おお、そうですか。役者の声色・・・でも三味線が引っ込んでしまって・・・」

声色男 「あたしのは噺家の物まねで」と、彦六文楽可楽志ん生圓生の噺家五人男の声色で白浪五人男をやった。
「問われて名乗るもおこがましいが、・・・髷(まげ)も島田に由比ガ浜・・・、がきの頃から手癖が悪く・・・、今牛若と名も高く、忍ぶ姿も人の目に・・・、さてどん尻に控えしは・・・」、これが見事な出来で主人も感心して、店の者にも大受けだ。得意満々になって、

声色男 「どうですあっしの芸は、千両役者も顔負けでしょう。千両貸しておくんなさい」

主人 「いや千両の値打ちがあっても、あなたには一文たりともお貸しできません」

声色男 「なぜだ、あっしは寄席をあっちこっち梯子して噺家の芸を盗んできたんだぜ」

主人 「質屋は盗品は扱いません」



        



白波五人男「稲瀬川勢揃いの場」(ウィキペディアより)
文久二年 (1862) 三月江戸市村座初演時の役者絵。三代目歌川豊国 画、
左から三代目關三十郎の日本駄右衛門、初代岩井粂三郎の赤星十三郎、
四代目中村芝翫の南郷力丸、初代河原崎権十郎の忠信利平、
十三代目市村羽左衛門の弁天小僧菊之助。







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