「泳ぎの医者」


 
あらすじ ある村の庄屋の作左衛門の一人が、急に何かの病やらになって苦しみ始めた。あいにく作左衛門は四、五日留守で、あわてた女房を見て下男の平兵衛が村はずれの医者を呼んで来ようと言う。

 これが名うてのヘボ、藪で有名な医者だがそんなことは言っていられない。女房は藁にでもすがる思いで医者を呼んで、娘の枕元に座らせる。

 医者は「どれどれ脈を・・・、舌を出してごらん・・・」なんて言って、おもむろに薬箱からなにやらを取り出し、「これを煎じて飲ませなさい。もう心配ないが、明日、また容態を見に伺うからご安心を」と、自信たっぷりで帰ってしまった。

 さて、薬を飲んだ娘は少し容態も改善し、楽なようになったように見えて、安心したのも束の間、急に苦しみ出して胸を掻きむしり出した。どうしようも手の施しようもないうちに娘は死んでしまった。

 ちょうど帰って来た作左衛門、女房から事の顛末を聞いてかんかんに怒りだした。憤懣やるかたない作左衛門は、「先生の薬のおかげで娘は立ちどころに治ってしまいました。どうかお礼のお席をもうけますので、是非ともお越しください」と下男を使いにやらせた。

 礼金とご馳走目当てで、のこのことやってきた医者を二人で荒縄でぐるぐる巻きにして近くの川へ投げ込んでしまった。医者は何とか縄をほどいたが、あいにく泳げない。ぶくぶく、あっぷ、あっぷと溺れそうになりながらも必死の思いでなんとか向こう岸にたどり着いて、わが家へ一目散で逃げ帰った。

医者 「もう、この村にはいられない。早く支度をしろ」、見ると息子が一生懸命に何か本を読んでいる。

医者 「これ、早く逃げる支度をせんか。何を読んでいるんじゃ」

息子 「父上のような名医(迷医?)になれますよう、医学の本を読んでおります」

医者 「医者になるにはまず泳ぎを習え」


      


     

594(2017・12)




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