「らくだ」
★.あらすじ 大酒飲みで酒乱で乱暴者、らくだの仇名の馬さんは近所から毛虫のように嫌われている。らくだの兄貴分が長屋を訪ねてみるとらくだが死んでいる。河豚(フグ)にあたったらしい。
兄貴分はちょうど通りかかった屑屋を呼び止める。
兄貴分 「ちょっと台所見てくんねえ」
屑屋 「あぁ、あんなとこでよく寝てますねえ」
兄貴分 「もう寝たっきりよ、フグに当たって、ふぐ死んじまった。弔いの真似事してやりてえから、家の中の物何か買ってやってくんねえか」
屑屋 「買える物なんぞとうにありゃしません・・・ずいぶん乱暴な人でしたが死んでしまえば仏様で・・・これはほんの心持で・・・」、小銭を置いて帰ろうとする屑屋に、
兄貴分 「ありがとうよ。お前のその親切を見込んでちょいと頼まれてくれ。長屋の月番のとこ行って香典集めるように言ってくれねえか」、兄貴分は嫌がる屑屋を脅して屑篭を置かせて月番の家に追いやる。
月番 「なに香典を集めろだと。らくだが死にゃあこの長屋じゃ赤飯蒸かして祝おうてんだ。お前さんも早く帰っちまえ」
屑屋 「それが篭を押さえられちまってるんで・・・」
月番 「どじな野郎だ。仕方がねえ、赤飯を曲げて香典にしてもらうように長屋を一回りしてあげよう」、屑屋が戻ると、
兄貴分 「ご苦労、もう一軒大家のとこ行って、”通夜の真似事します。酒を三升、飯を二升、肴は贅沢は言わねえ・・・”って届けさせろ。ぐずぐず抜かしやがったら、”死人のやり場に困っております。こちら様に死人を担ぎ込んでかんかんのう踊りをご覧にいれます”とそう言え」
屑屋 「そんなこと言ったらこの長屋で商売できなくなっちゃいますよ。今日は稼ぎがなくて家の釜のふたが開きません。もう帰りますからその篭返してください」だが、兄貴分にすごまれ仕方なく大家のところへ行くが、
大家 「なに、らくだが死んだ、そりゃ目出度い、あたしは助かった。なにせらくだは長屋へ入ってから三年間家賃一銭も払ってないんだよ。酒に飯に肴なんて、屑屋さんおまえいくつになるんだい。寝ぼけたこと言わないでさっさと帰っとくれ、水巻くよ!」
屑屋 「兄貴分てえのがらくださんに輪かけたようなすごい人で、駄目なら死人をかついで来てかんかんのうを踊らせると言ってますが」
大家 「おい、婆さん、死人のかんかんのうが見られるとよ。長生きはしたいものだ。やってもらおうじゃないか。楽しみにしてるよ」、戻って報告すると兄貴分は無理やりらくだの死骸を屑屋に背負わせて、大家のとこへ乗り込んだ。
兄貴分 「さあ、歌え」
屑屋 ♪「かんかんのう、きうのれす・・・」
大家 「おい、婆さん先に逃げるなよ・・・届けます、届ますからどうかお引き取りを・・・ほんとにやりやがった。縁起でもねえ、婆さん塩まいときな」、この手で八百屋からは早桶代わりの菜漬の樽をせしめて戻ると、
兄貴分 「今、長屋から香典と大家のとこから酒と煮しめが届いた。いい酒だ、一杯いこうじゃねえか」、もう商売に出ないと、釜のふたが開かないと帰りたがる屑屋を引き留め酒を飲ませる。
兄貴分 「おう、もう一杯やれ、飯だって一膳飯ってえのはねえじゃねえか。・・・なに、飲まねえ、俺がやさしく言っているうちに・・・」
屑屋 「飲むよ、飲むよ、・・・あぁ、こんなに注いじゃって・・・口からお迎えしなきゃ・・・」
兄貴分 「よぉ、いい飲みっぷりじゃねえか。駆けつけ三杯ってえだろが」、無理やり杯を重ねて飲ませているうちにだんだん屑屋が酔ってきて、愚痴っぽくなり、ついにはからみ始めた。
兄貴分 「おめえ、あんまり強くねえんだな。釜のふた開かねえといけねえから、このくらいにしときな」
屑屋 「おう、もう一杯注げよ、五日や十日休んだって釜のふた開かねえようなどじな屑屋とはわけが違うんだ。この酒だって俺がかんかんのう踊らせたからじゃねえか。おい、やさしく言っているうちに注がねえと死人にかんかんのうを踊らすぞ」、窮鼠猫を噛むか、いや屑屋さんは猫を被った大虎だったのだ。
兄貴分はたじたじとなって立場が逆転し、屑屋が主導権を取り、兄貴分を使いはじめる。らくだの頭を剃り、八百屋から手に入れた菜漬の樽にらくだの死骸を入れ二人で担いで、屑屋の友達が隠亡をしてるという落合の火屋に向う。
屑屋 「どんどん行け、・・・ここは早稲田だ。これを右に切れりゃ新井の薬師よ、真っすぐ行きゃあ落合だ。・・・」、途中でつまづいて転んだりしながらなんとか火屋に着いて、樽の中を見るとらくだの死骸が無い。途中で転んだ時に、樽の底が抜けて道に落としたらしい。
急いで死いを拾いに戻り、酔っ払って道に寝ていた願人坊主を間違って樽に入れ火屋に戻ると、焼かれそうになった坊主が眼を覚ます。
願人坊主 「ここはどこだ」
屑屋 「焼き場だ、火屋だ」
願人坊主 「冷やでもいいからもう一杯」
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★笑福亭松鶴の上方落語『らくだ』【YouTube】
屑屋(「江戸商売図会」三谷一馬)・願人坊主に由来する「すたすた坊主」(白隠慧鶴画)
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新井薬師(梅照院)
「ここは早稲田だ。これを右に切れりゃ新井の薬師よ、真っすぐ行きゃあ落合だ」
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新井薬師(「絵本江戸土産」広重画)
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上方落語「らくだ」のらくだの卯之助の住んでいた長屋のあった”のばく”あたりか?(地下鉄谷町六丁目の西側あたり) |
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