「落語家の兵隊」


 
あらすじ 夜、靴を磨いている二等卒の柳家金語楼、寒いので歌を歌い始める。
♪「チャチャンチャンチャン 下士官のそばへ行きゃ、めんこ(面倒)くさい、伍長勤務は生意気で、粋な上等兵にゃ金がない、可愛い新兵さんにゃ暇がない、なっちょらん、なっちょらん・・・」♪、すると目の前に上等兵がすくっと立った。

上等兵 「貴様、そこで何をしとるか」

金語楼 「くっくっくっ・・・・靴を磨いていたのでありまーす」

上等兵 「貴様、今、歌を歌っていただろう」

金語楼 「いえ、歌なんか歌ってないのでありまーす」

上等兵 「嘘つけ、ずっと後ろで聞いていたぞ」

金語楼 「はい、歌っていたでありまーす」

上等兵 「もう一度、歌ってみろ」

金語楼 「忘れたでありまーす」

上等兵 「今歌ったばかりだろ、忘れる奴があるか」

金語楼 「歌うでありまーす、♪下士官のそばへ行きゃ、めんこ(面倒)くさい♪ いいえめんこくさくありませーん。♪伍長勤務は生意気で♪、生意気ではありませーん、♪粋な上等兵にゃ、(むにゃむにゃ)がない」♪

上等兵 「上等兵に、何だはっきり歌え」

金語楼 「歌うでありまーす、♪下士官の・・・・粋な上等兵にゃ金がない・・・なっちょらん、なっちょらん♪ これは日本の上等兵ではないのでありまーす」

上等兵 「貴様こそなっちょらんぞ、官姓名を名乗れ!」

金語楼 「陸ぅ、陸ぅ~陸軍~・・・」

上等兵 「陸軍は分かっとる。官姓名を言ってみろ」

金語楼 「陸軍歩兵・・・」

上等兵 「陸軍歩兵何等卒だ」

金語楼 「陸軍歩兵二等卒でありまーす」

上等兵 「元ーい、姓名を言え」

金語楼 「山下ケッタロウでありまーす」

上等兵 「貴様、何をしておった」

金語楼 「靴を磨いていたのでありまーす」

上等兵 「ここへ入隊する前だ」

金語楼 「東京で落語家でありまーす」

上等兵 「・・・らくごかとは何か」

金語楼 「噺をする商売でありまーす」

上等兵 「誰と話をするのだ」

金語楼 「一人でするのでありまーす」

上等兵 「妙な商売だな。一つここでやって見ろ。大いに勇壮活発なものをやれ。忠臣蔵なんかがいいぞ」

金語楼 「その噺は知らんのでありまーす」

上等兵 「なに、忠臣蔵を知らない。お前それでも日本人か。広瀬中佐か乃木将軍をやれ」

金語楼 「それも知らんのでありまーす」

上等兵 「何でもいいからやってみろ」

金語楼 「はっ、それではそろそろ始めるでありまーす。”へぇ、今日はご隠居”、”やあ、熊さんか、久しぶりだねぇ”・・・」

上等兵 「おいおい、その隠居と熊はどこの何者だ?」

金語楼 「それが分からないのでありまーす」

上等兵 「分からないで、話ができるか?」

金語楼 「やっているのでありまーす」


 「語り芸の世界」(NHKラジオ・1987年8月収録の途中まで、一部改作・追加)
柳家金語楼が1963年頃に演じた噺のようだ。



    


       




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