「さんでさい」
★あらすじ 髪結いの亭主の甚兵衛さん。ぐずでうすのろ、おまけにお人良しなのでいつも女房に世話、面倒をかけ、女房の言いなりで頼り切っている。その女房はお産で実家に帰っている。
こんな甚兵衛さんを心配して、博打の名人でチョボ一の亀と恐れられていた親父は死ぬ間際に、「決して勝負事には手を出すな」と、きつく戒めて世を去った。
甚兵衛の女房の留守を幸いに町内のワルの熊公と源公が、甚兵衛を博打でだまして金品を巻き上げようとの悪だくみをする。
熊公 「金持ちの旦那方がなぐさみに勝負事をするんで、奥座敷を貸してくれ。テラ(寺)銭はウンと出すから頼むよ」
甚兵衛 「そんなことが女房に知れたら追い出されてしまう」
源公 「夜中にこっそり集まって静かに勝負をするだけで、誰にも気づかれる心配なんぞありゃしねえよ」、と二人からしつこくせがまれるので、人のいい甚兵衛さんは仕方なく承知してしまった。
熊公と源公は不良仲間を旦那に仕立てて甚兵衛の家に行き、
熊公 「もう一人の旦那が来れなくなっちまった。すまねえが甚兵衛さん、胴を取ってくれ」、親父からの博打禁止の遺言はあるが、胴親がもうかることぐらいは百も承知の甚兵衛さん、欲に目がくらんで博打に手を出してしまった。
源公たちはどう振っても必ず三が出るイカサマのサイコロを振らせて勝負する。むろん三にばかり張って大儲け。胴親の甚兵衛はつぶれて大損だ。
そのうちに熊公たちはなれ合いのイカサマ喧嘩を始めた。止めに入った甚兵衛さんを巻き込んで、どさくさ紛れに場の銭、テラ銭、さらに箪笥から金と親父の形見の象牙のサイコロまで、みんなかっさらって逃げてしまった。
甚兵衛さんは子どもみたいに大声を上げて泣き出してしまった。その声を聞きつけた大家が駆けつけて、
大家 「どうしたんだ甚兵衛さん、泣いてたんじゃわからんじゃないか」
甚兵衛 「大家さん、大変だ、三で賽(サイ)を取られてしまいました」
大家 「なに、産で妻を取られた。そりゃあ大変だ。して、寺はどこだ」
甚兵衛 「ああ、テラ(銭)は源さんが持って行きました」
|
|