★あらすじ わずかな金の算段もできず、女房から悪口雑言で馬鹿にされた男、家を飛び出し大きな木の下で首でもくくろうかと思っていると、後ろから死神に声を掛けられる。
お前はまだ寿命があるから、死のうと思っても死ねない、金の儲かる仕事を教えるというのだ。医者になって病人の寝ている部屋へ行き、死神が枕元に座っていれば病人は寿命が尽きていて助からず、足元にいれば、「アジャラカモクレンテケレッツのパ」と呪文を唱えれば直るという。
男は半信半疑だが、家にかまぼこの板で医者の看板を掲げるとすぐに、日本橋の越前屋四郎兵衛の番頭がやって来て、幾人もの医者から見放された当家の主人を見てくれという。行って見ると、死神は足元に座っている。これ幸いと例の呪文唱え、手を打つと死神は消えてなくなり、病人ははたちまち起き上がり、何か食べたいと元気になる。
これが評判となり、引く手あまたで大繁盛、大儲けだ。裏長屋から表通りの邸宅に移り、うるさい古女房と子どもとは金を渡して別れ、若い女を引っ張り込み、上方見物で散在する。気がつけばすっからかん。若い女も金の切れ目が縁の切れ目でどこかへ行ってしまった。
男はまた医者を始めるが、いつも死神が枕元に座っていて儲けにはならない。ある日、麹町五丁目の伊勢屋伝右衛門から迎えが来る。行って見るとやっぱり死神は枕元だ。なんとか直してくれ、1月でも寿命を延ばせたら1万両差し上げると言われ目がくらみ、妙案を男は考えた。店の若い衆4人に病人の寝ている布団の隅をもたせ、一気に回して死神を足元にしてまうのだ。
枕元に座り、夜中は目を爛々と輝かせ、病人を苦しめ唸らせていた死神も、昼近くになると疲れてコックリ、コックリと居眠りを始めた。ここがチャンスと男は店の若い衆に一に二の三で布団を回させ、呪文を唱える。驚いた死神だがもう遅い、あっという間に消えてしまい、病人は蘇って、計略は大成功に見えた。
家に帰って計画大成功と浮かれて男が酒を飲んでいると、死神が現れ男を暗い穴蔵に誘う。そこには無数の蝋燭(ろうそく)が並んでいる。長いのや短いの、あかあかと威勢よく燃えているもの、今にも消えそうなもの様々だ。
死神は蝋燭の長さが人間の寿命という。あそこで長くて元気よく燃えているのはお前のせがれで、半分の長さのは前のかみさんの蝋燭という。死神は今にも消えそうな一本を指し、これがお前の寿命だという。
驚いた男に隣の半分くらいの長さで燃えているのが、もともと男の寿命の蝋燭だったが、麹町の病人の家で馬鹿なことをしたものだから、寿命の尽きる病人のものと入れ替わってしまったのだという。
男は死神に謝り、必死でもう一度助けてくれと頼む。死神は灯しかけがあるから、お前の蝋燭とつないでみろという。うまくつながれば命は助かるという。死神に早くしろとせっつかれ、男はつなごうとするが、手が震えてなかなかできない。
死神 「ほら、早くしろ、震えると火が消えるぞ」
男 「ああ、消える・・・・」
死神 「ほおら消えた」、(男(圓生)がばったり前に倒れる)
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