「真景累ヶ淵⑤」


 
あらすじ お累が死ぬと新吉の行状を感づいていた村人たちは新吉を恨み、誰も付き合わなくなった。そんな新吉にお賤は、「うちの旦那を殺しておくれな」と持ちかける。躊躇する新吉をせかして、細引きで首を絞めて寝ている惣右衛門を殺害する。

 お賤は本家へ走って惣右衛門が寝ている間に死んだと知らせる。遺言状には、「・・・お賤には五十両つけて江戸に帰してやってくれ、・・・湯灌は新吉に頼む・・・」という奇妙な物だが遺言は遺言だ。

 新吉は一人では亡骸の湯灌はできずにいると、甚蔵が手伝い始める。甚蔵は死骸の首に細引きの跡の筋がくっきりと残っているのを見逃さない。甚蔵は新吉に惣右衛門殺しを白状させて、お賤を強請(ゆす)りに行く。

甚蔵 「姉さん、ちっとばかり小づけえをねえ・・・」、「しょうがないねえ」と、二朱金ふたつ、一分を差し出したお賤に、

甚蔵 「一分、二分のはした金じゃどうにもなりやせん。三十両もらわなけりゃ追っつかねえんで」、甚蔵は外にいる新吉を引き入れる。

 新吉から惣右衛門殺しがバレてしまったこと聞いたお賤は仕方なく、「今はないから晩方までに持って行くよ」、「きっと持って来いよ」で甚蔵は帰って行った。

お賤 「甚蔵に三十両渡したってそれで済むもんかね。一生たかられるのが落ちさ。いっそのこと殺してしまおうよ」、新吉も得心して甚蔵を殺す算段をする。

 新吉は甚蔵の家に行って、「実は根本の聖天山の手水鉢の根元に二百両埋めてあるんだ。あたしらはその金で江戸に帰って世帯を持つつもりだ。兄いに三十両ぽっち渡しても焼け石に水、どうだ半分の百両ですっぱりとこっれきりにしてくれないか」

 百両の話に目がくらんだ甚蔵は、「じゃあ早く掘り起こしに行こうぜ」と大乗り気。二人は聖天山へ登り、手水鉢の根元を掘り始める。

 新吉は一心不乱に掘っている甚蔵の背後に回って短刀で一突き、苦しがってもがく甚蔵を引きずって崖から突き落とし、上から大きな石を投げつけて一目散にお賤のところへ逃げ帰った。

お賤 「うまくいったかえ」、「やった、やった、これでさばさばした」、これから二人で仲良く酒盛りをして寝ようとすると、表の生垣がゴソゴソ、何だろうと新吉が見ると、髪はざんばらざん、全身泥まみれで血だらけの甚蔵が月の灯りに照らされて物凄い形相で入って来た。

 甚蔵はふらふらと新吉に近づいて、「よくもおれをだましやがったな」、腰から出刃包丁を取り出して新吉の胸元めがけて突こうとする。逃げようとする新吉は震えて仰向けに転んでしまう。

 甚蔵は出刃包丁を振りかざしたところへ、どこから飛んで来たのかズドンと鉄砲の音、甚蔵は胸を打たれてバッタリと前に倒れた。見るとお賤が鉄砲を持っている。

お賤 「新吉さん、怪我はなかったかえ。これは旦那の鉄砲であたしも撃ったことがあるんだよ」

新吉 「甚蔵をぶっ殺しちまって、もうこんなとこには居られやしねえや」

お賤 「そうだね、すぐに逃げようじゃあないか」

新吉 「よし、少しも早く今宵のうちに」、逐電した二人は江戸に向かった。






お賤の江戸風の小さな妾宅があった鬼怒川の土手下。
今はこのあたりに民家などはない。
新吉が二百両埋めてあると甚蔵を誘いだした根本の聖天山は
架空の地名で羽生村は平坦で小高い所はない。


        

699(2018・3)




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