「しの字嫌い」
★あらすじ 飯炊きの権助と二人暮らしの隠居。権助は役に立って重宝しているが、いつも屁理屈をこね、隠居の言うことに揚げ足を取って喜んでいる。「煙草盆に火を入れて持ってきてくれ」と言うと、「煙草盆に火を入れたら燃えるがええか、それを言うなら”煙草盆の中の火入れの中の灰の中に火を入れて”と言うのが物の道理だんべ」と、こんな調子だ。間違いではないからなお悔しい。
たまにはこっちから困らせてやろうと画策し権助を呼ぶ。「今日から縁起の悪い”し”の字を言ったらだめだ。もし一回言ったら、一か月分の給金はやらない。二回なら二か月分だ」、権助「でも、おらだけ罰を受けるのは理不尽で納得がいかねぇ」、ごもっともで、隠居「もしも、あたしがしの字を言ったら、何でもお前の望みの物をやる」で、ポンポンと手を打って「しの字禁止合戦」が始まった。
隠居 「おい、権助、水は汲んだか?」
権助「へえ、汲んで・・・、汲み終わった」
隠居は、本家の嫁が器量良しだが尻(しり)が大きいと近所で評判なので、「・・・近所の若え者(もん)がなんと噂している」
権助 「本家の嫁御は器量はええが、尻(けつ)がでけえと・・・」、どっこい権助はそんな手に乗るほどの間抜けではない。そこで隠居は四貫四百四十四文(しかんしひゃくしじゅうしもん)の銭勘定をやらせることにした。座らせて勘定させればきっと、「さしを使わせてくれ、足がしびれた・・・」と言うだろうとの魂胆だ。
隠居 「ちょっとこの銭勘定をやっとくれ」、だが、さしは銭の穴に通す縄、足のしびれは足のよ(四)びれで、罠もどっこい権助は引っかからない。数え終えた
権助 「旦那さま、ちょっくらそろばんを入れてください」と、逆襲に出る。
隠居 「そろばんか、・・・さあ、いいぞ」
権助 「二貫とまた二貫、二百とまた二百、二十とまた二十、二文とまた二文、旦那さま、それでいくらだね」
隠居 「権助、お前が言うんだ」
権助 「じゃあ、よん貫、よん百、よん十、よん文」と、なかなか土俵を割らない。ついに、
隠居 「しぶとい奴だ。・・・しまった」
権助 「そら言った、おらの勝ちだ、ウッシッシ」で、勇み足の引き分けとなった。
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★金原亭馬の助(初代)の『しの字嫌い』【YouTube】
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