「羽団扇」


 
あらすじ 正月の年始回りからほろ酔い気分で帰って来た熊さん女房が買ってきた縁起物の七福神のお宝を枕の下に置いて寝てしまった。

 女房「あら、いやだもう寝ちまったよ。・・・まあ、いやらしい、ニヤニヤしてよだれなんか垂らして、・・・女の夢でも見てんだろう・・」と、やきもちを焼いて熊さんを揺り起こし、どんな夢を見たのか問いただす。「夢なんか見ちゃいない」と繰り返す熊さん。

 「見た」、「見ない」でついに新年早々、夫婦喧嘩が勃発する。そこへ割って入った通り掛かったも、ついにはどんな夢か話すべきだと熊さんに迫る。「見てないものは、見てない」と正直で頑固者の熊さん。男はこれじゃ埒(らち)があかんと、熊さんに当て身を食わせ、小脇に抱えると羽団扇をはたいてひとっ飛び鞍馬山の山中へと連れ去った。

 気がついた熊さん「ここは何処だ。お前は誰だ」、「鞍馬山だ。俺はこの山の天狗だ。羽団扇で飛んでお前を連れて来た。ここでゆっくり夢の話を聞くぞ」、すると熊さんは何処かで見たような聞いたような不思議な感覚に襲われる。そうだこれは『天狗裁き』と同じ展開だ。ここで正直・強情を貫くとえらい目に遭うと、窮地から脱出する計略を思いつく。

 熊さん「やっと思い出しました。両国の花火の夢で・・・、どうも素手だと喋りにくいし、花火の見事な様が出ません。扇子か張り扇か・・・そこの羽団扇を貸してください・・・」、天狗「馬鹿を言うな、この羽団扇は貸すことなどできんわ」だが、どうしても夢の話を聞きたくて我慢がならず、「ちょっとだけよ」と羽団扇を熊さんに手渡した。

 チャンス到来、しめたと「じゃあ触るだけ・・・」なんて言って熊さん、羽団扇を少しずつ動かし始めるとふわりふわりと熊さんの身体は浮き始め、天狗は下に置き去りとなった。予期せぬ展開に天狗は「降りろ、降りろ!・・・」と絶叫するのみ。熊さん「やーい、ざまあ見ろ馬鹿天狗、羽団扇なしの芸無し天狗・・・」と、悪口雑言、どんどん鞍馬山から遠ざかって飛んで行った。

 いつの間にか下は大海原。うっかり羽団扇をあおぐ手が緩むと、真っ逆さまに海上へと落下した。ボッチャーンでなくストンと落ちたのが、七福神の宝船の上。新年会で盛り上がっている連中。珍客の来訪に大喜び、図々しい熊さん、弁天さんの隣に割り込み、別嬪さんのお酌で、”こいつぁ春から縁起がいいわい”と、踊って歌って酔って弁天さんの膝枕で寝てしまった。やきもちを焼いた毘沙門が「図々しい奴だ。起こせ、起こせ・・・」、弁天さん「あの、潮風が身に沁みますから、お起きになって・・・・、ねえ、お前さん・・・ちょいと・・・」

熊さん 「分かった、分ったよ、弁天様・・・」

女房 「あら、あたしが弁天様」と満更でもない。

熊さん 「そうじゃねえ、・・・ああ、そうか夢か」

女房 「まあ、どんな夢、ねぇ聞かせて」

熊さん「今思い出すから一服つけてくれ」
夢の話、羽団扇・天狗・鞍馬山・七福神の宝船と、長々と話し、

熊さん「・・・弁天様に起こされたと思ったら、お前・・・お前も弁天様みたいに綺麗だ」と抜かりない。

女房「そんなお世辞言わなくとも・・・初春早々、七福神の宝船に乗ったって、そういう目出度い夢・・・」

熊さん「そうよ、恵比寿、大国、毘沙門、弁天、布袋に福禄寿」

女房「それじゃ六福神だよ。一つ足んないよ」

熊さん「あぁ、一(福)服はさっきお前がつけてくれた」


   
        


三遊亭円歌(二代目)の『羽団扇【YouTube】



江戸両国橋夕涼大花火之図(歌川国虎)




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