「馬の田楽」

 
あらすじ 堺筋山権商店の前へ、味噌樽を二つ積んだを引いて来た馬方が、腕木に手綱を巻いて馬をつなぎ店の中に入って行った。

 近くで遊んでいた悪ガキどもがぞろぞろと馬の回りに集まって来る。ガキ大将「この馬のお腹の下くぐって遊びまひょか」、「この間、お腹の下くぐったらお腹の下でぶらぶらしている棒で打たれ、馬に頭かぶられたん・・・」、みんな恐がって尻込みしている。

 お芋を食べていた由松が、仲間に入れてもらおうと「わたいがくぐりますわ」、ガキ大将「あんたはお芋食べてたらええのやがな。・・・そなら馬の尾一本抜きなはれ。わたいが釣りに行く時のてぐすにしますのや」、ガキたちは、「わたいも」「わたいも」と騒ぎ始める。

 由松はここで抜かなければ仲間はずれになると、馬の後ろに回って、尾をつかんでグィツと引っ張った。まとめて五、六本抜けたのはよかったが、馬は痛がって足を踏み出した。すると腕木にしっかりとは結ばれていなかった手綱がほどけて馬はヒョコヒョコと歩き出してしまった。

 馬方が店から出て来ると馬の姿がない。物陰から様子を見ているガキどもに、「おい、ここにつないでおった馬知らんか。・・・こら、返事ぐらいしたらどやねん。ここらの小倅(せがれ)、ほんま悪い奴ちゃなあ」

ガキ大将 「おっさん、偉そうに言いなはんな。人にもの教えてもらうのにそんな言い方あらへんで」

馬方 「こらぁ、わしが悪かった。・・・まあ、機嫌直して教てな、なあ、ぼんぼん」

子ども 「由松つぁんが馬の尾を五、六本抜いたら、馬はヒヒーンと言うてそっちの方へヒョコヒョコ歩いて行きはった」

馬方は慌てて後を追い、すれ違う人に聞く、「馬をご存知やおまへんかいな」

通行人 「えー、何じゃて。乳母かいな。乳母はな、・・・ちょいと暇くれ言うて帰ったきりまだ戻ってきやへん」と、全然通じない。

道端で掃除をしている人に聞くと、「・・・馬が馬子も連れずに用事しよる。えらいもんじゃと見ていたら、そこに止まって草食いだしたんで、これ、こんな所で道草食ってたら使いが遅れるちゅうて、竹ぼうきで尻ピシャーとどついたら、びっくりしてあっちへ走って行ったやがな」

馬方 「・・・もう皆寄ってたかって、わしの馬ワヤにしやがって・・・」、今度は向こうから酔っ払いがふらふらしながらやって来た。藁(わら)にもすがる思いで、

馬方 「大将、ここを今、味噌樽積んだ馬、通りまへなんだか」

酔っ払い 「なんやて」

馬方 「・・・味噌荷、味噌をつけた馬は知りなはらんか」

酔っ払い 「なに、味噌つけた馬・・・アッハハ・・・わしゃまだ、馬の田楽は見たことないわい」


    
  




桂米朝の『馬の田楽【YouTube】





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