★あらすじ 横町の甚兵衛さんのところへやって来た喜六に、
甚兵衛 「おまはん、素麺好きやったな、今十束ほどゆがいたんやけど、とても家の者では食い切れん。食べんの手伝うてくれるか」
喜六 「しょうむない、たった十束そこらの素麺なんか」
甚兵衛 「そやけど、こないぎょうさんあるねん」
喜六 「こないぎょうさん?わしに勧めんやったら、せめて三十束ぐらいゆがかんと・・・そらまあ、好きやねんさかいに食いますけど・・・ツツツ~、ツツツ~、これでしまいでっか」、食べっぷりにびっくりして見ている甚兵衛を尻目に、あっという間に甚兵衛たちの食う分まで平らげてしまった。
喜六 「ごっつあんでした。今度はもっと仰山ある時に呼んでおくれやす、さいなら」、呆れた甚兵衛さんは何とか喜六を困らせてやることはできないものかと、清八に相談する。
清八 「三輪の素麺屋に特別に長い素麺を作ってもらいまんねん。それ、切らんと食わしたりまひょか」、「こらおもろい」で、三輪に長い素麺を注文し届けさせた。
甚兵衛 「えらい長い素麺やけど、これどないしてゆがいたらええやろか」
清八 「そうでんなあ、・・・お寺はん行って大きな釜借りてきまひょか」
甚兵衛 「アホなこと言いないな。どんな大きい釜やったかて、こんな細長いもん・・・」
清八 「ええことがおます。屋根の樋(とい)はずしてその中で素麺ゆがきまひょ」、樋をはずして、庭に細長い穴を掘って、そこへ炭火をカンカンにおこして、その上に樋を乗せ水を張る。そこへ長い、長~い素麺を折らないよう切れないようにゆがく。喜六を呼んできて、ゆがいた素麺を特大の器に入れて出した。
甚兵衛 「ちょっと変わった素麺が手に入ったんで、素麺好きのお前に是非とも食べてもらおと思うて・・・」
喜六 「今日はたっぷりとありそうでんな、こんな大きな器で、おおきに・・・」と、素麺を箸に挟んで、ええ加減のところでタレをつけようとするが、持ち上げても持ち上げても素麺が延々と続いて行く。ついに器を持ったまま立ち上がって、
喜六 「こらえらく長い素麺でんな。あれあれまだある、まだある、ちょっとすんまへん、そこの襖開けて階段使わしてもらいまっせ」、二階へ上がる梯子段の上まで行ったら、素麺の先がやっとタレのところへ届いた。
そこで素麺をすすり上げようとしたらバランスを崩して、梯子段からすべり落ちて下へドシーン。長い素麺も滝のように上から下まで流れ落ちた。
甚兵衛 「ほう、見てみいな。綺麗やないか、箕面の滝みたいやな」
喜六 「あ、それで腰打ったんや」
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