★あらすじ 戦前までは十二、三才の小僧さんが水道のゴム管を売りに歩いていた。だが、「水道のゴム屋あっさりと断られ」で、なかなか売れない。
小僧(ゴム屋) 「うんちわ~、水道のゴムはいかが」
男1 「何お~!」、「あの、水道のゴムはいりませんか」
男1 「誰が、水道のゴム買うと言った!」、「いらないんですか?」
男1 「てめえ、俺に恥を掻かせるつもりだな。俺んとこには水道はねえんだ」、「さいならぁ~」
小僧 「うんちわ~、水道のゴムはいかが、お婆さぁ~ん」
婆さん 「どなたなじゃ。・・・ほおぉ、炭屋の小僧・・・」、「水道のゴム屋ですよ」
婆さん 「あぁ、酔狂な米屋・・・」、何度繰り返しても埒があかない。
小僧 「うんちわ~、水道のゴムはいかが」
男2 「おぉ、感心な小僧だ。おめえ年はいくつだ」、「へえ、十三で・・・」
男2 「そうか、がらが大きいから十五、六に見えた。学校へ行ったか?」、
小僧 「五年まで行ったんですが、お父っつぁんが病気して、それで奉公に出ちゃったんです」
男2 「惜しい事したな。もう少しだっていうのに。でも親のためなら仕方ねえや。親大事にしてやれよ。どこだ国は?」
小僧 「へい、東京なんです」
男2 「そうか江戸っ子じゃねえか。その心持を忘れんなよ。今におめえが大きくなったら水道のゴムの会社化何か建てて、そこの社長になんなきゃいけねえなあ、そのつもりでしっかりやってくれ。・・・そうか、へへへ、感心な小僧だな。おめえ年はいくつだ」、「えっ、十三、十三」、「そうか、がらが大きいから十五、六に見えた・・・」、これを三度繰り返して、すっかり小僧が覚えてしまった。あげくのはてに、
男2 「俺んとこじゃいらねえから脇へ持っててくれ」と、時間の無駄だった。
小僧 「うんちわ~、水道のゴムはいかが。・・・奥さん~」
奥さん 「うるさい!こん畜生め、うちの人が三日も帰って来ないや。うちの人は悪魔よ、嘘つきよ、結婚する前に二十万円貯金がある、温室には四季の花が咲いているなんて嘘ばかり並べて、・・・温室があるのはお隣の家よ、・・・あたし決心したのよ。復讐してやるわ。精神的な復讐してやるのよ。・・・ねえゴム屋さん、あんた水道のゴムばかりじゃないんでしょ。ガスのゴムも持ってるんでしょ」
小僧 「さいなら! なにが精神的な復讐だい。ガス殺人の手伝いさせられるとこだった」
小僧 「うんちわ~、水道のゴムはいかがですが」
男3 「君は水道のゴム売ってるのか。一尺いくらだ」、
小僧 「へい、十九銭でございます」、男は二尺でいくら、三尺、四尺、五尺でいくらと聞いて来る。
ついには、「百七十六尺三寸六寸でいくらだ?」
小僧 「あなたそりゃあ、・・・ええと、一尺が十九銭で・・・」、小僧さん四苦八苦して計算しているが答えが出ないでいると、
男3 「君、無駄なところに頭を使っちゃいけないよ。ここに取り出したのは、九十九野八十一先生が考案した完全無欠の計算機だ。これさえあれば足し算、引き算はもとより、掛け算、割り算、代数分解、因数分解、高等数学に至るまで立ちどころに答えが一発だ。・・・君ィ、今の計算をやって見ようではないか。(計算機を指で動かして)・・・どうだい、厘の位までこのとおりだ。この計算機があれば君の出世は間違いなしだ。・・・来週になればこの計算機はデパートで五円で売り出される。今は宣伝期間中で三円だが、今回は特別に君に一円五十銭で提供しよう」
小僧 「冗談じゃない」
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