★あらすじ 四十日もの間、日照り続きで、困った村の庄屋が、怠け者で村人に借金だらけの源兵衛のところへやって来る。
庄屋 「ちょっとお前に雨乞いをしてもらいたいと思うてな」
源兵衛 「庄屋さん、あんたボケたんとちゃうか。なんで百姓のわたいが雨乞いができまんねん、お宮はん、明神さんへ行きなはれ」
庄屋 「明神さんへ行ったんや、雨乞いしてくれちゅうてな。ほたら宮司さんが雨乞いの仕方なんぞ知らんちゅうのじゃ。宮司さん宝蔵へ入って、百三十年前の大日照りのこと書いた帳面持ってきてな、帳面に”雨乞い二日二晩にわたりて行われ、三日目の明け方から、滝のごとき雨、二日二晩にわたりて降り続けり”と、書いてあるそうな。それはこういうこっちゃ。その頃、怠け者の百姓がおって、こいつが村のもん誰かれなしに金借りてたんじゃな。村のもんが”六十日の日照りじゃ食うもん無いようになった銭返せ”、て迫ったんやそな。その時にこの男が”何かい、雨さえ降らしゃそれでえぇのか”、”雨さえ降りゃ、少々の借銭あとになってもかまやせんわい”、”そんならわし、雨降らしたるがな”ちゅうてな、この男、本殿へこもったそうな。そしたら三日目の明け方からホンマに雨が降ったそうな」、「そらぁ、みな喜びましたやろ」
庄屋 「田畑は甦って潤い、村のもの一同、まっことありがたいと踊り回ったそうな。それで、雨乞いの詳しいやり方は、その男の家のもんが”一子相伝す”と書いてるそうな」
源兵衛 「なるほど、百三十年前ちゅうたら、たかだか四、五代前でっしゃないか、その家おまんねやろそこ行きなはれ。子孫が伝えてまっせ。早よ、こんなとこにおらんと行きなはれ」
庄屋 「それで、お前とこへ来たんじゃ。お前からちょうど四代前じゃ、名前もおんなじ源兵衛じゃ、”村の者、これよりこの男をば雨乞い源兵衛と呼ぶ”と書いたあるそうな
源兵衛 「何ぼ呼ばれたかちゅうて、わたい雨乞いなんて知りまへんで」
庄屋 「知らんでは済みゃせんのじゃぞ。その時に雨降らしてくれたんで借銭はそのままになってあるんじゃ。ええか、お前が雨降らさんてなことになったら、その時の借銭耳揃えて今返せ・・・」
源兵衛 「そんなアホなこと言いなはんな。銭の無いのん四代前目もわたいも一緒やで」
庄屋 「銭も返さん、雨も降らさん。そんなこと言うなら村の血の気の多い若いもんがどういうよなことになるか・・・」、庄屋に脅されても、これという思案も浮かばず、やけ酒呑んでゴロッと寝てしまった。だが、その日はちょうど晴れから雨への天気の変わり目で、夜中からポツポツと降り出した雨が、明け方には車軸を流すような勢いの雨になって、村中大喜び。
庄屋 「源兵衛、よお雨乞いしてくれた。雨が降ってきたぞ」
源兵衛 「雨乞い?わたいが?」、庄屋はお詫びやらお礼やら、とにかく家へ来てくれと、源兵衛を駕籠の中に押し込み庄屋の家へ。源兵衛を座敷の上段に座らせて、前には山海の珍味を並ばせ、村の者がみな寄って、”命の恩人でございます。さすが源兵衛様じゃ、生き神様じゃ”、なんちゅうてみなが手を合わせて拝むほどだ。源兵衛も悪い気もしないでその気になってご満悦の体だ。
ところが今度は雨が降り続いて一向にやむ気配がない。
村人 「兎川の勢いもえげつない勢いになりよった。堤が切れよったら命にかかわるぞ。あの源兵衛めがこない雨降らせよって・・・」、またもや困って、
庄屋 「源兵衛、直ぐにこの雨降りやましてくれ」
源兵衛 「そんな無茶言いなはんな。あんたが、降らせ降らせ、言うから降らしましたがな」
庄屋 「それは、よう分かってるわい。頼む、今度は降りやましてくれ。四代前の源兵衛は二日二晩で降りやましてくれたというんじゃ。とにかく村のもんの命が危ないのじゃ。堤が切れたら命がありゃせんでの。もし、降りやまさんよなことなら、村には血の気の多い若いもんが大勢おるんじゃ、上の池も兎川もフタはしてないんじゃ、どんな目に遭わされるかわしゃ知ったこっちゃありゃせんぞ。その代わり、うまいこと降りやましてくれたら、うちの一人娘のお花ぼう、お前の嫁にやろ」
源兵衛 「お花?えぇ~、お花ちゅうたらあの鬼瓦のお花かいな。嫌やで、今年三十二でまだ嫁にもらい手がないんやがな。縁談が持ち上がるたんびに、相手の男この村から飛んで出るっちゅうねん。♪お花、嫁にとるならばよぉ~、何ぼか夜逃げがましであろぉ~・・・♪、ちゅうて盆踊りの歌にもなったんで・・・、雨降りやましたら、お花が嫁に来るし、降りやまなんだら池へ放り込まれるし、えらいことになってきたがな」、源兵衛またもややけ酒飲んで、ふてくされて寝てしまった。
庄屋が源兵衛の家を訪れたのが、ちょうどこの雨からお天気の変わり目、夜中頃からボチボチ雨脚が弱まって、朝にはすっかり雨は上がってカンカン照りとなった。
村人 「源兵衛は変わりもんじゃのぉ。池とお花と天秤にかけて、お花のほう取りよったぞ。わしなら進んで池はまりよるがのぉ。けど、お庄屋さんはやっぱりえらいのぉ。ドサクサにまぎれてあのお花、片付けよったぞ。やっぱり人の上に立つ人は違うのぉ。けど、源兵衛は気の毒じゃのぉ」、庄屋さんこれでやっとお花が片付くと、喜び勇んでお花を連れて源兵衛の家にやって来て、
庄屋 「さぁ、お花こっちへ来い。・・・源兵衛、おるか・・・源兵衛、源兵衛ぇ~・・・、家ん中、もぬけの殻じゃなぁ、何にもありゃせんぞ・・・。ははぁ~、またいつものことか、お花の名あ出すと逃げて行きよる」
お花 「父っつぁま」、「わっ!びくっりした。急に顔出すな。お前わ」
お花 「わたしの婿さんわ?」
庄屋 「婿さんなぁ、今度の話はちょっと無理じゃったのぉ、あの通り日和を意のままにする男じゃ、並みの人間じゃありゃせん。ありゃ竜神さまのお使いかも分からん、いやご化身かも分からんぞ」
お花 「けど、わしが振られたのには間違いないぞ」
庄屋 「そりゃあ、振(降)られるはずじゃ、相手は雨乞い源兵衛じゃからのう」
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