「須磨の浦風」

 
あらすじ 鴻池家紀州公がお忍びで来ることになった。主人(善右衛門)が店の者を集めどんなもてなし方がようかろうと相談する。

番頭 「この暑い盛りに冬仕立ての趣向はどうでっしゃろ。薩摩上布の布団で炬燵(こたつ)を作ります。足がさわっただけでチリチリとして汗が引こうというもの。その下に水盤を置き、冷たい水を張って、火の代わりに金魚か小さな緋鯉を泳がしときます。涼しい冷たい炬燵で、庭は雪景色にしまひょ。綿と木綿で芝居の舞台のように作って涼しい風を送ります」

主人 「今時、涼しい風?どないすんねん」

番頭 「須磨の浦風を取り寄せたらええかと。長持ちの中に須磨の浦風を納めて、漏れんように目張りをして持ち帰ります。紀州公の御前で封じを切れば涼しい浦風が流れ出るという趣向はいかかで」

主人 「なるほど、そりゃ結構だ」、早速百棹もの長持ちを人足五百人ほどがかついで須磨の浦へ。海岸で夜明けを待って、朝の涼しい風を長持ちに一ぱい納めて紙で目張りをして東へ向かった。

 だんだんと暑くはなるし、夜通し走っているのでさすがの人足連中もフラフラになって、湊川の土手まで来るとみな一休みのつもりが寝てしまった。

 太陽が真上にぎらぎら照る頃に起き出してきて、「暑くてかなわんがな。ここに入っちょる須磨の浦風、これ開けたらどなんやろ」、みんな一応は止めるが、「百もあるんや。一つぐらい開けたかてわからへんがな」で、目張りをはずすと、涼しい風がすーっと。その気持ちいいこと。こうなればこう止まらない。

 我も我もと人足たちは長持ちを開けて涼みだした。すぐに長持ち全部が開けられてしまって須磨の浦風は煙と消えてしまった。さあ、大変、今から須磨へ行って風を取ることもできない。

人足1 「何ぞ、代わりの風詰めたらよいがな」

人足2 「風なんかそよとも吹いておらんがな」

人足3 「どや、屁でも仕込んどいたろか」、おもろいおもろいと、人足どもは長持ちの中にブゥーブゥーブゥー。長持ちを毒ガスで満タンにして出発、無事、鴻池家に運び込んだ。

 さあ、紀州公の御成となって、冷たい炬燵に雪景色に、「余のためにしつらえてくれたる馳走、礼を言うぞ」と大満足。

主人 「今一つ、涼しい須磨の浦風を・・・」、店の者が次々に長持ちの封じ目を切ると、何とも言えぬ匂いがフワーッと、

主人 「こりゃ何じゃ、誰じゃこんな風を持って来よたんは!」

紀州公 「善右衛門、そう叱るでない。きっとこの暑さで須磨の浦風が腐ったのであろう」

 


    




須磨海岸(JR須磨駅前)
殺風景の浜辺だが夏は駅から直行の海水浴場になるようだ。
神戸市の坂①』・『山陽道(神戸駅→朝霧駅)』

「旅人は袂すずしくなりにけり 関吹き越ゆる 須磨の浦風」(在原行平








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