★あらすじ 熊五郎が出入りの店の大旦那から呼ばれ行くと、若旦那が具合が悪く寝込んでいるという。ある名医の見立てによると、気の病だという。いろいろ聞いてみたが誰にも心の中を打ち明けないので、気心の知れた熊さんになら心の中を明かすかも知れないから、聞き出してくれと頼まれる。
若旦那の部屋に行き、やっと聞き出すと恋患いと言う。相手は20日ほど前に清水さまにお参りに行った時、茶店で出会った水もたれるような綺麗な娘さん。別れ際に、「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の」と書いた紙を渡してくれた。下の句が「割れても末に逢はんとぞ思ふ」の崇徳院の歌で、いずれ再会し夫婦になりたいという意だと言う。
熊五郎は大旦那からその娘さんを探し出すように頼まれる。探し出しせば借金を棒引き、今住んでいる三軒長屋をくれると約束だ。早速探しに出るが、この辺に水がたれる女の人はいないかと聞いて回っているだけで見つからない。
女房から崇徳院の歌を大声を出して歩き、人のよく集まるフロ屋とか床屋へ行くように言われてまた探し始める。
熊さん 「瀬をはやみ・・・」、「ちょいと豆腐屋さん」
熊さん 「瀬をはやみ岩にせかるる〜・・・、あれっ、ずいぶん子どもが集まってきたな。紙芝居屋じゃねんだ。あっちへ行け!」
熊さん 「瀬をはやみ・・・」、「ウー、ワンワンワン」、「犬まで怪しんでいやがら。床屋へでも入ってみるか。こんちわ」、「いらっしゃい」、「混んでますか」
床屋 「今ちょうど空いたところで・・・」、「さいなら」
熊さん 「瀬をはやみ・・・」
通行人 「ほう、あなたは崇徳院さまのお歌がお好きなようですな」
熊さん 「もし、あなた崇徳院の歌をご存知で?」
通行人 「このごろ、うちの娘が始終その歌を口にしておりますんで、あたしも覚えちまって・・・」
熊さん 「えっ、お宅のお嬢さんが、・・・お嬢さんはたいそうな器量良しじゃありませんか?」
通行人 「親の口から言うのもなんですが、ご近所ではとんびが鷹を産んだなんて・・・」
熊さん 「しめた、水がたれますね」
通行人 「水はたれませんが、まだときどき寝小便をやらかしまして」
熊さん 「えっ、寝小便を? おいくつで?」
通行人 「五歳です」、「さいなら、瀬をはやみ・・・」、ついにフロ屋を36軒、床屋を18軒回り、ふらふらになって夕方に同じ床屋に入ってくる。
そこへ店(たな)のお嬢さんが恋患いをし、崇徳院の歌を手がかりに相手を四国に探しに旅立つという、頭(かしら)に出会う。お互いの店に来いと、もみ合っているうちに、鏡を割ってしまう。
床屋 「そ〜ら、やっちまった。鏡割っちまって。どうしてくれるんだい」
頭 「なに心配いらねえ、割れても末に買わんとぞ思う」
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