★あらすじ 思いつめた様子で甥の作次郎がやって来た。
叔父さん「どうしたんだ、そんなに浮かない顔をして?」
作次郎 「惚れていた女に騙されで、振られました」
叔父さん 「そんなのはよくある話だ。その女は白か黒か?」
作次郎 「どっちかというとブチで・・・」
叔父さん 「犬じゃないんだから。素人女か玄人、遊女とか芸者とか、どっちだ?」
作次郎 「新橋の芸者です。これから短刀で一突きで女を殺して自分も死ぬ覚悟です。叔父さんには大変お世話になりましたのでお暇(いとま)を言いに来ました」
叔父さん 『そんな早まったことをすれば後で悔やむことになる。こんな話がある、昔、晋の国の智伯(ちはく)という人が趙襄子(ちょうじょうし)に滅ぼされて殺され、智伯の家来の予譲(よじょう)は主人の仇を討う機会を狙っていたが捕らえられてしまった。
趙襄子は一人で主君の仇を討とうとするのは立派であると予譲を解き放った。それでも予譲は復讐をあきらめず、顔や体に漆を塗り、炭を飲んで声を変え、乞食姿で機会を狙っていた。
ある日、豫譲は橋の下で待ち伏せて趙襄子の暗殺を狙ったが、趙襄子の乗った馬が殺気を感じて動かなくなったため見破られ、また捕らえられてしまう。
趙襄子 「一度は助けてやったのになぜまたわしの命を狙うのだ。お前は昔は范氏と中行氏に仕えていたが、両氏とも智伯に滅ぼされた。だが、智伯を討とうはせずに逆に仕えた。なぜ、智伯にだけ忠を尽くし仇を討とうとするのだ?」
豫譲 「范氏と中行氏の扱いは人並であったが、智伯は私を国士として遇してくれたので、国士としてこれに報いるのみ。”士は己を知る者のために死す”という」
趙襄子 「あっぱれな心構えではあるが、今わしがここで討たれれば国が乱れる。これをわしと思って存分に恨みを果たせ」、着ていた着物を脱いで豫譲に渡した。豫譲は無念と剣で着物を突くと血がタラタラ。豫譲はそこで自害し、趙襄子も一年も経たずに死んでしまったという。お前もその女から何かもらったものはないか?』
作次郎 「・・・写真があります。いつも懐に大事に持っています」
叔父さん 「振られた女の写真など後生大事に持っていてどうする。突くなり破るなどして恨みを晴らしなさい」、なるほどと作次郎は持ってきた短刀で女の写真を思い切りズブリと突いた。すると畳の上に真っ赤な血がダラダラ・・・。
叔父さん 「おお、執念とは恐ろしいものじゃ。写真から血が流れた」
作次郎 「なに、あたしが指を切ったんで」
|