「将軍の賽」


 
あらすじ ♪”きのう勤皇、あしたは佐幕・・・”と、世情騒がしい頃、浦賀沖に黒船がやって来て、「泰平の眠りを覚ます上喜撰(じょうきせん) たった四杯で夜も眠れず」と、大騒ぎだ。

 水戸の殿様は寺々から釣鐘を出させ、これを八つ山の上に並べて大砲に見せかけ、異人たちを驚かそうとした。異人たちはそのアホらしさに驚いたが、坊主どもは釣鐘を取られて寺がつぶれると驚いて困った。その時の落首に、「仏法を鉄砲にした水戸っぽう四方八方公方貧乏」

  一方、江戸城に勤番の大名はやることもなく暇でしょうがない。ある大名が退屈なので賽コロを持ち出し、城内で他の大名連中と博打を始めた。

 さすがに昼間は人目をはばかりながら、こっそりとやっていたが、夜になると裃(かみしも)を脱いで向こう鉢巻で、「丁方ないか、ないか。ないか丁方」、「コマが揃いました」、「勝負!」と、市中の賭場も顔負けの熱気がむんむんだ。

 ある晩、「勝負!」 という声が将軍の耳に入った。
将軍 「治にいて乱を忘れず、かような夜中に勝負を争うとは末頼もしい。ひとつ見届けてつかわそう」 と、黒船来航で国家存亡の危機なのに、平和ボケしたバカ殿様が襖を開けて入ってきた。

 夢中で賭博に熱中している大名たちは将軍の御成なんぞ気づくはずもない。すると将軍さん賽コロに目をとめて、ひょいと摘まみ上げて、

将軍 「これは何じゃ」、 慌てた大名たちの中から、井伊掃部頭が進み出て、

井伊 「恐れながら申し上げます。これは東西南北天地陰陽をかたどりまして、彫り刻みましたるわが国の宝物にござりまする」

将軍  「しからば、一つ目の刻みのあるは何じゃ」

井伊 「恐れながら、わが国で唯一無二の将軍家をかたどりましたるものでござりまする」

将軍 「裏の六つの目は・・・」

井伊 「日本は六十余州、六尺をもって一間とし、六十間をもって一丁、 六六、三十六丁をもって一里といたしまする」

将軍 「四つは・・・」

井伊 「徳川家代々の四天王の酒井・榊原・井伊・本多でございます」

将軍  「裏返して三つは」

井伊 「清水・田安・一橋の御三卿で・・・」

将軍 「五つはなんじゃ」

井伊 「御(五)老中にござります」

将軍 「二つは」

井伊 「紀伊・尾張の御両家で・・・」

将軍  「なに!御三家と申すになぜ水戸を入れぬ」

井伊 「水戸を入れますと、テラ(寺・博打の親)がつぶれます」


    



浦賀城址から(ペリーの黒船はこの下の左あたりに停泊した) 「説明板
ペルリ提督像」(芝公園内)

右側の岬は燈明崎(燈明堂)・正面は房総半島。


        

620(2018・1)




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