「樟脳玉」


 
あらすじ お人良しで気が弱く、正直者で愛妻家の捻兵衛(ねじべえ)さんが、女房に先立たれ落胆と悲しみのあまり仕事も手に着かない。家に籠りっきりで、朝から晩まで仏壇の前に座って泣きながら念仏を唱えている。捻兵衛は金を相当貯め込んでいるという噂で、女房も元はお屋敷奉公していた衣装持ちで、これに目をつけて稼ごうと悪巧みを考えた兄弟分の二人組。捻兵衛の前に女房の幽霊を出して、着物に気が残っているから浮かばれずに幽霊となって出るのだと脅し、寺へ納めてあげようと言いくるめて、全部いただいてしまおうという策略だ。

 その夜、二人は樟脳長太郎玉に火を着けて青白い火の玉をこしらえ捻兵衛の家の天井の引き窓から糸を付けて垂らし、仏壇に手を合わせている捻兵衛の前に降ろしてゆらゆらと振った。捻兵衛さんは肝をつぶして作戦は大成功だ。

 翌朝、弟分の八公が何食わぬ顔で捻兵衛の所へ行き、「あんな立派な葬式を出したからには仏さんもきっと浮かばれて成仏したことでしょう」と鎌を掛けると、捻兵衛は「まだ浮かばれていない、迷っている」と、昨日の火の玉幽霊の一件を話し出した。「それはおかみさんが着物に気が残っているからだ」と筋書き通りに話を進め、寺へ納めてあげるからと、まんまと捻兵衛の思い出が詰まる高価な着物をごっそりとかすめ盗ってしまった。だが八公は上手く行過ぎて肝心のを盗るのを忘れてしまった。

 欲深い二人は、その夜また火の玉幽霊を出して振り回す。そして翌朝、八公は捻兵衛の家に行って、まだに気が残っているから幽霊が出るのだと持ちかける。すると捻兵衛さんは、「葬式で使って、もう一文もありません」と意外な答え。それでも八公は、「まだ大切にしていた物が残っているでしょう」としつこい。捻兵衛さんは少し考えてお雛様の箱を持って来て蓋を開けた。

捻兵衛 「あぁ、分かりました。女房はこれに気を残しています」

八公 「え!どうして分かりました」

捻兵衛 「今、蓋を開けたら昨夜の魂の匂いがいたしました」




 



 *長太郎玉:衣類の保存、防虫に使う樟脳粉を丸めた物。水に浮かべて点火すると燃え、熱くもならず他の物を焼かない。縁日では子供のおもちゃとして売っていた。芝居では人魂(火の玉)に使われていた。






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