「蛸坊主」

 
あらすじ 生玉さんの門前の小料理屋に入った、人相の悪い四人の旅の僧。高野山の僧と名乗り、精進料理を注文する。

 がつがつと料理をたいらげた旅僧、「実に美味い料理じゃった。ところでお椀の汁のダシは何から取った」、
主人 「当店では土佐の鰹節を・・・」と、気づいた時はもう遅く、旅僧は待ち構えていたように、

旅僧 「なに!精進修行中の身である我々に鰹節のダシとはけしからん。・・・十三年の修行が一瞬のうちに無に帰した。もはや高野山へは帰られん。一同、この店で養うてもらうぞ」と、無理難題、強請(ゆす)り始めた。

 店主も困って金を握らせて追っ払うしかないと思い始めた頃、ちょっと離れた所で食事をしていた粗末な身なりの老僧が近づいて来て、「許しておやりなされ。悪意があってのことではなかろう。・・・口にもろもろの不浄を食べて、心にもろもろの不浄を食わずという。うっかり食わされた鰹節のダシに、目くじらを立てるということこそ、僧侶の道ではなかろう」。

 そんな話をはなから聞く耳なぞ持っていない旅僧たちは、「もう、高野の山へは帰られん」の一点張り。
老僧 「先ほどから高野の山、高野の山と言っておるが、高野山の何院、何坊のお方たちじゃ」、四人は顔を見合わせて、「え、どない言おう」、「どこでもええがな、そんなもん」、「とにかく、高野の僧なのじゃ」と、あたふた。

老僧 「ならば、愚僧の顔に見覚えはないか?」

旅僧 「知らんな」、「知らん、知らん、どこの馬の骨か、そんなもん知らんわい!」

老僧 「この大がたりのにせ坊主どもめ!高野山学僧の束ねをなす、この勧学院の愚僧の面を知らぬはずかなかろう。人の小さな過ちにつけ込んで、強請り、たかりを働く、人の風上にも置けぬ輩ども。この売僧坊主。えせ坊主、堕落坊主。クソ坊主。生臭坊主、我利我利坊主、破戒坊主、インチキ坊主、かたり坊主、このタコ坊主めらが!」

旅僧 「けしからん、坊主、坊主を並べ立てて。・・・一番終いのタコ坊主とは一体何じゃ」、四人は目くばせすると一斉に老僧に掴みかかる。老僧は少しも慌てず、四人を次々に前の池へ投げ込んだ。四人の坊主は、逆さまに池の中に突き立ったようになって、ずらりと足が八本並んだ。

老僧 「それ、蛸坊主じゃ」


  




生魂国神社
地元では「生玉さん」と呼ばれている。



うっすらと雪化粧の金剛峰寺
高野山町石道


御廟橋から奥の院 
ここから先は撮影禁止。 『高野街道A






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