「天狗裁き」


 
あらすじ お咲がうたた寝している亭主喜八の顔を見ると、笑ったり、怒ったり、うなされたりしている。何か夢でも見ているのだろうち揺り起こして聞くと、夢なんか見ていないと喜八。
お咲はかちんときて、「女房にも言えんような夢見てたんか」、喜八は、「アホ、見てたら言うわい」で、おさまるかと思いきや、引き下がらないのがお咲さんだ。言い合いから、口喧嘩、はては掴み合いの夫婦喧嘩、「さぁ、殺せ!」なんて有様にエスカレートとした。まあここまでは日常茶飯事、二人の道楽みたいなものだが。

 また夫婦喧嘩かと隣の徳さんが飛び込んで来て、間に入って喧嘩の訳を聞いて、「そんなアホらしいことで喧嘩するな」と収める。徳さんはお咲をお茶でも飲んで来いと自分の家に行かせ喜八に、「ほんまはどんな夢見てたんや?」と聞く。お前もかとあきれて喜八、「俺ほんまに、夢なんか見てへんのや」、徳さんは、「兄弟分の俺にも隠すのか」としつこい。喜八は、「見てない夢の話なんかできっこない」と突っぱねて、また喧嘩が始まった。

 表を通りかった家主がこれを聞きつけ、二人の間に割って入り、喧嘩になった訳を聞き、徳さんに、「夢の話なんてくだらんことを聞きたがらずに、精出して働いて溜った家賃を払え」と追い返す。そして喜八に、「面白そうな夢を見たようだな。家主の俺には聞かせてくれるな」と膝を乗り出した。喜八は、「夢見てたら話すが、ほんまに何にも見てない」と、もういい加減にしてくれだ。すると家主、「親子同然の家主に隠し事する店子は、長屋に置いておくわけにはいかん」と店立てを言い立てる始末。見てもいない夢のことで、こんな無理難題を吹きかけられ、困った喜八は、「お恐れながら」と願書を大坂西町奉行所へ差し出した。

 お奉行さん、こんな馬鹿馬鹿しいケッタイな訴え事は前代未聞、「家主、町役などという者は、町人どもの鑑(かがみ)とならねばならん。店子の見た夢の話を聞きたがって、店立てを申したてるとは言語道断、不届き千万」と家主を叱り飛ばし、晴れて喜八の全面勝訴となった。
すると、帰りかける喜八に奉行、「あぁ、待て待て、女房が聞きたがり、隣家の男が聞きたがり、家主までが聞きたがったる夢の話、奉行にならば喋れるであろう」、まさかと足を止め茫然自失の喜八、まさに「奉行よ、お前もか」だ。見てない夢は喋れないのだと、喜八は泣きながら訴えるが、怒った西町奉行は、「かくなる上は、拷問にかけても夢の話を聞き出して見せる」とサド奉行に変身した。可哀そうに喜八は、奉行所の松の木にぶら下げられてしまった。

 こんなアホ臭いことで、ここまま死ぬのかと思うと腹立たしいのを通り越して情けない。そのうちに、にわかにサァ−と一陣の風。ふわっと喜八の身体は宙に浮き、気がつくと鞍馬山の大僧正ヶ谷。目の前には大天狗がすくっと立ちはだかっている。「あのような者には人は裁けん。その方が不憫(ふびん)なゆえ天狗が助けた」、助けてくれた礼を言う喜八に天狗、「たわけたことよ、夢の話など聞いて何になる・・・・・」だが、天狗も人の子? だんだん聞きたくてしょうがなくなって来た。
天狗 「わしは、聞きとうはない。が、その方が喋りたいというのなら聞いてやってもよい」

喜八 「ほんまに、夢なんか見てしまへんのや」

天狗 「天狗をあなどる気か。八つ裂きにして杉の梢に掛けるぞ」と、鋭く長い爪を喜八の体へ伸ばしてきた。

喜八 「助けてくれ! あ〜あ〜、助けてくれ−、あぁ−!」

お咲 「ちょっとあんた! 起きなはれ、えらいうなされて、一体どんな夢見たん?」





        
日本一の大天狗面 
鞍馬山は『天狗さし』に記載。



桂米朝の『天狗裁き【YouTube】




日本最大の大天狗の座像」(仙台の愛宕神社

   

愛宕神社 《地図

神門右に「日本最大の大天狗」、左に「日本最大の烏天狗」が座っている。
天狗は、愛宕大神のお使いで、大天狗は愛宕太郎坊といい天狗の中でも最高位の天狗。烏天狗は大天狗の命を受け善道をつかさどる。





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