「茄子娘」
★あらすじ 東海道は戸塚の宿から一里ほど離れた村の禅寺のお尚さん。本堂の脇の畑で野菜を作っていて、なかでも茄子が大好物。毎日、「早く大きくなりなさい。大きくなったら私の菜(さい)にしてあげるから」と茄子に話しかけていた。
ある夏の夜、お尚が蚊帳に入って寝ようとすると、友禅の着物姿の17、8の美しいな娘が現れ、自分は茄子の精だと言う。お尚が妻(さい)にしてくれるというのでやって来たという。菜と妻違いだが、折角なので蚊帳に入れ、肩を揉んでもらっているいるうちに、夕立となって近くに雷が落ちた。驚いた娘はお尚の胸元にしがみつき、木石ならぬお尚も娘をしっかりと抱きしめた。
夜が明けると娘の姿はなく、お尚の体はぐっしょり。悪い夢を見ていたようだが、たとえ夢とはいえ五戒の一つ、不邪淫戒を破るとは仏につかえる身にあるまじき罪。お尚はまだまだ修行が足りないと寺を捨て、諸国行脚雲水の旅に出る。
早くも五年の歳月が過ぎ、懐かしさのあまりお尚は村へ帰って来た。無住になって荒れている寺の山門まで来ると中から、「おとうさま」と呼ぶ声。見ると5つくらいのつんつるてんの着物で、お河童頭の女の子だ。あまり可愛いので膝に抱きあげて、「私は出家の身、子どもなどはない。もう夕暮れ時、早くお家に帰りなさい」とやさしく言う。
すると女の子は、「いえ、あたしは五年前に畑の茄子のお腹から生まれた子ですもの」、あれは夢、幻ではなく現(うつつ)だったのかとお尚はすくすくと育っている女の子を見て、
お尚 「ここは無住の寺、そなた、誰に育ててもらった」
女の子(茄子娘) 「一人で大きくなりました」
お尚 「なに、一人で、なるほど親はナス(なく)とも子は育つか」
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