★あらすじ 長崎のある漁村で、珍しい魚が捕れたが誰もその名を知らない。漁師は恐れながらと奉行所へと申し出て魚の名前を聞くが、むろん役人どもは知る由もない。だが、知らないのはお上の沽券に関わることなので、名を知っている者には百両を与えるという高札をあちこちに立てた。
しばらくすると、多度屋茂兵衛という商人が奉行所に出頭し、魚を見てこれは「てれすこ」という魚だと申し立てた。役人の方も本当か嘘かを確かめる術もなく、茂兵衛に百両を与えた。これを聞いたお奉行は嘘臭い怪しい話と思い一計を案じる。”てれすこ”を干物にさせ、「また珍しい魚が捕れたので、名を知る者には百両与える」と高札を出した。
これを見た茂兵衛さん、柳の下のどじょうで止せばいいのに、また百両せしめようと欲をかき、のこのこと奉行所へ出向いて行った。「てれすこ」の干物を見て、「これは”すてれんきょう”という魚です」と申し立て、奉行の仕掛けた罠に掛かって召し捕られ入牢の身となってしまった。
お白州での厳しい吟味の末、奉行は「始め”てれすこ”と申せし魚を、次には”すてれんきょう”と申し、上を偽わる不届き者。重きお咎めもあるべきところ、お慈悲をもって打首申しつくる」と、前代未聞の「テレスコ裁判」は一件落着となった。
奉行は最後に望みがあれば、一つは叶えてやるという。茂兵衛は妻子に一目、会わせて欲しいと願い出る。すぐに乳飲み子を抱えやせ細った女房がお白州へ呼ばれ、茂兵衛との今生での別れの対面となった。
女房のやつれた姿に驚いて理由(わけ)を聞くと、入牢した茂兵衛の身の証しが立つようにと、火を通した物は口に入れない火物断ちをしていたが、赤子の乳が出ないのは可哀そうなので、そば粉を水で溶いたものをすすっていたという。
茂兵衛はそこまでわが身を案じてくれる女房に感謝して、「もう思い残すことはないが、子供が大きくなっても、決してイカの干したのをスルメとだけは言わせてくれるな」と遺言した。
これを聞いた奉行、膝を打って「多度屋茂兵衛、言い訳相立った。即刻、無罪を申し渡す」で、スルメ一枚で首の皮はつながり放免となった。
それもそのはず、おかみさんが火物(干物)断ちをしましたから。
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