「ちりちとてん」


 
あらすじ 横町の旦那は今日が誕生日、喜ィさんを呼んで昼間から一杯やる。世辞の上手い喜ィさんは、まずは旦那は年より若く見えるからに始まり、京都の知り合いからもらった白菊という酒を「幻の名酒」だと誉めて美味そうにグビグビ呑み、鯛の刺身を生まれて初めて食べると言って、ワサビ、醤油も誉め、寿命が延びますなんて調子のよさだ。次の茶碗蒸しは乗っている柚子(ゆず)から玉子、エビ、百合根、かまぼこ、アナゴ、銀杏(ぎんなん)と入っている具すべてと、ダシまでも忘れずに誉め上げながら、熱い、美味いと平らげていった。ちょうどそこへ鰻屋に注文してた鰻の蒲焼きが届いた。旦那はご飯に乗せて食べたらと勧める。喜ィさんはご飯?初めてでございます。なんて見え透いたことを言っているが、旦那は悪い気はしない。

 それに引き替え裏に住んでいる竹さんは、美味い物は食べ尽くして飽きているなんて食通ぶっている。そのくせ昼時にやって来ては、何杯も飯を食って行く。それも「うまい」、「美味しい」とか言った試しがなく、「相変わらず悪い米使っている」、「炊き方が下手くそ」だなんて言い草だから腹が立ってしょうがない。旦那は一度、ぎゃふんと言わせる仕返しがしたいと思っている。

 そこへ奥さんが水屋に入れ忘れていた豆腐を持って来た。黄色く毛羽立ち、何とも臭い代物だ。旦那はこれをあの憎っくき竹さんに食わそうと思いつく。「珍味」が手に入ったと言えば知ったかぶりだから、「こんな物食べたことがある」、「こうやって食べるんだ」、なんて言いながらきっと口に入れてもがき苦しむだろうから、それを見ながらちびちびと酒を呑もうという算段だ。喜ィさんも旦那の誕生日の趣向には打ってつけだと大乗り気だ。

 奥の座敷で娘さんが、「♪チリトテチン、チリトテチン」と弾く三味線の音を聞きながら、腐った豆腐ということが分からないように、潰して醤油+ワサビ+梅干=長崎名物の珍味「ちりとてちん」の出来上がりとなった。折に詰め、綺麗な包装紙でくるみ、「元祖 長崎名産ちりとてちん」と書いて準備万端、哀れな犠牲者となるべき竹さんを呼びにやった。

 呼ばれたからしょうがないという顔でやって来た竹さん、早速白菊をガバガバ呑んで、「あぁ甘い、美味いことはない」との言いようだ。旦那が鯛、茶碗蒸し、鰻を勧めると、「わてを呼ぶんだったら、びっくりするよな珍味を用意しときなはれ」と、自分から釣り針に掛かって来た。それなら長崎名産の「ちりとてちん」を知っているかと聞くと、案の定「ちょっと前まで遊びで行った長崎で朝、昼、晩と食べてましたがな。酒のあてに良し、ご飯のおかずにたまりまへんで」、さらに偽物が出回っているから、本物かどうか見極めてあげると言うから好都合だ。

 早速、折を持って来させ竹さんの目の前へ置くと、漂うその臭さに、「えらい臭い、たまらんなぁ」と言いながらも包みを開けて、「珍味というものは、沢山食べるもんやない。箸にちょっとだけでお酒・・・・」、目にピリピリと来て涙ぐみながら、「これがよろしぃ・・・・長崎の人はいきなり食べませんよ、食べる前に目で味わうのが本場の通の食べ方」と口へ、「エ、エ〜ックション!」、「鼻へツンと きた時が食べ頃で、一番美味しい、オェ〜、オェ〜 ・・・・・あぁ〜美味しい」

旦那 「お前、涙にじんでぇるで」

竹さん 「涙出るほど美味しぃですわ」

旦那 「わしら食べたことないけど、ちりとてちんてどんな味や?」

竹さん 「ちょ〜ど、豆腐の腐ったよぉな味ですわ」




東京ではそのものずばりで、『酢豆腐』(古今亭志ん朝)【YouTube】です。





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