「殿集め」

 
あらすじ 京都のご大家の娘さん、歳が十八で評判の別嬪さん。この娘さんが何を血迷ったのか、「清水の舞台から飛び降りる」 という噂が立ち、口から口へと広がって今日はその当日。

 清水寺境内は一目飛び降りるところを見ようと大勢の群衆、それも男ばかりで熱気むんむん。皆それぞれに勝手なことを言っている。

見物人1 「十八の別嬪の娘はんが、今日この清水の舞台から、パ~ッと飛びはりまんのん。こら楽しみでんなぁ、女子(おなご)やさかいフンドシはしてませんわなぁ」

見物人2 「ほんまに飛び降りはるやどうか、わて知りまへん」

見物人1 「そら殺生だっせ。わたいわざわざ仕事休んで見に来てまんねんで」

見物人2 「ほな、仕事行きなはれ」

見物人1 「けど、仕事行たとたんに飛ばれてみなはれ、こんな悔しいことおまへんがな。ほんで、その十八の娘はん清水の舞台から何で飛ばはりまんのん?」 

見物人2 「わたいが想像するところでは親の眼病のため・・・」

見物人1 「たかが親の眼病なんかで娘はんが飛び降りまっか?」

見物人3 「もし、もし、黙って聞いとったらようそんなええ加減なことを。眼病やおまへん。病気は病気でも横根だす」

見物人1 「横根なんてもん女子にもかかりますか?」

見物人3 「そらあんた、男でも女ごでも皆かかりまんがな」

見物人2 「横根になったからちゅうて、何で娘さんこの清水の舞台から飛ばなあきまへんねん?」

見物人3 「あれ、高い所から飛んだら、痛さ知らずに膿(うみ)がみな外へ飛び散りまんねや。八里四方へ走ってる馬を越して飛び散りまっせ。横根八里は馬でも越すがちゅうて」

見物人4 「横根の膿なんて汚いもんが飛ぶのやあらへんで。娘さんの夢枕に立った仙人からお前は空を飛べると、お告げがあったんや。それから娘さん空飛んで見たいと思うようになっが半信半疑で、もし飛べずに落ちても安全なように噂を流してこんな大勢集めたんや。別嬪で軽い娘さんなら我も我もと手を差し伸べて抱き止めてくれるという算段や」

壮士 「これこれ勝手なことばかり言いよって。眼病でも横根でも空飛びでもないわ。患いは患いでも恋患いじゃ」

見物人 「あぁ、なるほど、どっかの若旦那に惚れたか片思いとか、親が許してくれへんとか・・・」

壮士 「そうではない相手は壮士じゃ。つまりこの、国家の行く末を案じ、我が身を国体のために捧げんとする・・・早い話がこの我輩じゃ」

見物人1 「はっはっは、十八の娘はんがあんさんに?」

壮士 「黙れ!間違いなく娘御は我輩に惚れておる。恐らくどこぞで我輩が演説する雄姿をかいま見たのじゃろ」

見物人2 「じゃあ仮に娘はんがあんさんに一目惚れしたとして、何で飛び降りなきゃいかへんので?」

壮士 「おそらく親の決めた意に沿わぬ縁談でもあるのじゃろ」

見物人3 「ほな、これからどなしやはります?」

壮士 「一旦娘御にはこの舞台から飛び降りさせ、それをば下で我輩が大手を広げしっかりと抱き止める。すぐに蘇生させれば娘御はわしの首っ玉へかじりつくであろう。吾輩は娘御の家の婿養子に入って一件落着、目出度し、目出度しじゃ」

 まあ、こんな調子でみんな好き勝手なことを言って盛り上がっていると、さあ、いよいよ娘さんがお供の女中を連れて本堂へ参拝して、舞台の上に登場した。

 下でがやがや騒いでいた連中は波を打ったように一瞬静かになって舞台を見上げて思い出したように、

見物人 「よぉ、待ってました。眼病でっか?横根でっか?空中散歩?それとも恋患い~?」、壮士のおっさんも毛深い腕を一ぱいに広げて待ち構えている。

 すると娘さん、舞台の上からゆっくりと群衆を隅から隅まで眺め回して、くるりと後ろを向いてそのまますたすたと帰り出して、お供の女中に、
「これだけ殿御を集めても良い男はいないものじゃなあ」




清水寺









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