「つづら泥」


 
あらすじ 質屋伊勢屋に流れそうな質物がたんとある与太郎。受け戻す金などなく兄貴分に相談する。兄貴分も同様で質物を盗み出す方策を考える。

 その方策とは、つづら(葛籠)を伊勢屋の前まで運び、「伊勢屋さん、伊勢屋さん 泥棒が入った」と怒鳴り、二人でつづらの中に隠れる。伊勢屋の親父は強欲で因業だから、つづらを見て早く店の中にしまえと言うだろう。夜中につづらから抜け出して、二人の質物を取り返してつづらに入れて帰って来るという寸法だ。

 さあ、二人は段取りどおり進めてつづらに入ったまではよかったが、伊勢屋は汚い大きなつづらを見て、丸に柏の紋と大与と書かれているのに気づき、「泥棒が工の太郎の家から盗んで来たが、あまり汚いので呆れて放り出して行ったのだろう」、こんな物でも与太郎のところでは大事な物だろうからと、店の者に与太郎の家まで運ばせる。

 与太郎のかみさんは、ずっと何も入っておらず、図体だけでかい汚いつづらを迷惑そうに、隅っこの方へ置いてもらって寝てしまった。

 つづらの中の二人、夜中にそろそろ仕事に取り掛かろうとつづらから出る。あたりは真っ暗だが、
与太郎 「汚ねえ家(うち)だなあ。でもなんだか俺の家に似てるな」

兄貴分 「さあ、早くおめえのもんをつづらへ入れちまえ」

与太郎 「ああ・・・みんなボロばっかりだ。ありゃ、俺の半纏(はんてん)だ。・・・これは俺の寝間着・・・枕まであるぞ、かかあのやつ、こんなもんまで質に入れやがった」

兄貴分 「おや、蔵の中と思っちゃいたが、隣は台所だぜ」

与太郎 「汚ねえ台所だ。おや、この角の欠けたへっついは俺んちのだ。へっついまで質に入れるたあ、ひでえかかあだ」

がやがやうるさくて目を覚ましたかみさん 「静かにしとくれよ。うるさくて寝られないじゃないか」

与太郎 「いけねえ、かかあまで質に取られた」



  


        




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