「提灯屋」


 
あらすじ チンドン屋が配った広告をもらった長屋の連中。読める者はおらず町内に新しい店が開店らしいのだが、何の店か分らずに、寿司屋だ、そば屋だ、天ぷら屋、鰻屋などと勝手なことを言っている。

 ちょうど通りかかった米屋の隠居に読んでもらうと、「・・・提灯店開業仕り候・・・七日間は開店祝いとして提灯のご紋は無代にて書き入れ申し候・・・万一書けざる紋これあり節は、お望みの提灯無代にて進上いたすべく候・・・なるほど・・・お前たちに分かるように言えば、書けない紋があったら提灯をただでくれるということだ」

長屋➀ 「生意気な提灯屋じゃねえか。こんなに字ばかり書きやがって、提灯の絵かなんか描いてくるがいいじゃねえか。よおし、書いたものが証拠だからこの広告持って提灯ただでもらって来るからみんな待ってろ」

長屋➀ 「おい、提灯屋、紋が書けなきゃ提灯ただくれるな」

提灯屋 「へえ、紋と名がつきます紋でしたら、何んなりともお書きいたします」

長屋➀ 「それじゃあ、鍾馗さまが大蛇を胴切りにしたって紋だ」

提灯屋 「ほほう、珍しい紋ですな。大蛇を丸く描いてその中に鍾馗さまを描きますか」

長屋➀ 「そんな紋があるけえ。鍾馗さまが大蛇を胴切り、これは判じだ」

提灯屋 「あなたそりゃあ判じ物でしょう。・・・分かりません、そんなもの書けません」

長屋➀ 「鍾馗さまがでうわばみ(大蛇)の胴を切ったんだから、片っ方がうわで、方がばみだ。剣を持っているから剣片ばみだ」

提灯屋 「ああ、それならお書きします」

長屋➀ 「何言ってやんでえ。今おめえ書けねえって言ったじゃねえか。このぶら提灯もらって行くぜ」、意気揚々ぶら提灯をぶら下げて長屋の連中の所へ凱旋した。おれも提灯ただでもらって来るとまた一人が提灯屋へ行く。、

長屋② 「お寺の大地震だ」

提灯屋 「そんなの書けません」

長屋② 「大地震が来りゃあ、九輪も崩れてしまうから、りんどうくずしだ。もらって来よ」、とぶら提灯が二張り目。すぐに三人目が、

長屋③ 「髪結床の看板が湯に入って熱いてんだ」で、「髪結床の看板はねじれているだろ。湯に入って熱いからうめろって言うだろ。だからねじ(捻じ)梅だ」、ついにぶら提灯はなくなったが、まだ提灯屋いじめは続く。

長屋➃ 「算盤の掛け声が八十一で、商売を始めたら大儲けして、道楽始めたらかみさんと喧嘩になって離縁したって紋だ」

提灯屋 「何ですかあなた。一体それは・・・」

長屋➃ 九九が八十一、商売で儲かってがあったからくくりだ。かみさんが離縁して去って行っちゃったからくくりざる(括り猿)だ。この馬乗提灯もらって行くぜ。また来るぜ、今日は町内で提灯行列だ」、次はおれが行く、おれだと騒いでいる連中を見かねて、

隠居 「あたしが広告を読んであげたばかりに提灯屋に気の毒な事をした。何とかこの埋め合わせをしてやろう」と提灯屋へ。

提灯屋も、「悪い所へ店出してしまったがおれも男だ、もうこうなりゃ、てこでも動くまい」と、覚悟は決めたものの、また来る提灯行列で戦々恐々としている所へ貫禄のありそうな爺さんがやって来る。「あの連中の元締め、親分だな。なんとでも言いやがれ」と、開き直っていると、

隠居 「あの高張提灯を一対欲しいのだが、家まで届けてください」

提灯屋 「店で一番高い高張提灯を届けろだと、さすがに念が行ってやがる」

隠居 「わたしの紋は丸に柏だ」

提灯屋 「マルにカシワ!さすが元締めだけあって解けそうで解けない無理難題を言って来やがった。マルにカシワ、・・・マルにカシワ、ちくしょうマルにカシワだな・・・」

隠居 「どうしたんだい提灯屋さん。そんなに力んで顔を真っ赤にして。ありきたりの紋だよ。丸に柏だ」

提灯屋 「マルにカシワ、マルにカシワ・・・あっ!分かった、すっぽん鶏(にわとり)だろう」


    
丸に柏紋
     

  
柳家小三治の『提灯屋【YouTube】


   
馬乗提灯ぶら提灯高張提灯



提灯屋(馬場商店)
中山道(高宮宿~武佐宿)』





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