★あらすじ お寺の門前でたいそう繁盛している植木屋の主人の幸右衛門。女房と今年十六、自慢の小町娘のお光との三人暮らし。字が書けない幸右衛門は和尚に節季の書き出し(請求書)を書いてもらおうとやって来る。和尚は手が離せない用事があるので、伝吉に書かせにやるという。伝吉は今は寺に居候の身だが、れっきとした武家の出で、いずれ五百石の家督を継ぐ身という。和尚は伝吉を呼び事情を話して植木屋へ行かせる。
伝吉は幸右衛門が書いた帳面の絵文字、記号のような意味を教わりながら、百本ほどの書き出しを一刻(いっとき)ばかりで書き上げてしまう。喜んだ幸右衛門は、「これからはあんたに頼むは」と、酒肴でもてなして寺へ帰した。
これが縁となって、伝吉は植木屋へ来るようになり、幸右衛門の相談相手にもなる。すっかり伝吉を気に入った幸右衛門は、お光に変な虫がつかないうちに伝吉を養子に迎えて婿とし、商売は娘夫婦にまかせて楽隠居したいと考える。
女房に相談すると結構なことだが、本人の気持ちが肝心という。すぐにお光を呼んで話すと、赤い顔して畳にのの字を書いている。せっかちな幸右衛門は、「よーし、よーし、俺がこれから寺に行って伝吉を貰て来るさかい、ちょっと待ってろよ」と、飛び出して寺に乗り込んだ。
だが、幸右衛門の思うように事は進まない。和尚は、「伝吉は五百石の跡目を相続せんならん身じゃ、他家へ養子などもってのほか」と、にべもない。あてがはずれて、「要らんわい」と尻(けつ)をまくって帰って来た幸右衛門だが、まだ諦めきれない。伝吉を呼んで酒肴を並べてお光に相手をさせ、二人きりにして既成事実を作ってしまおうするがこれも失敗。
しばらくして女房がお光のお腹がポテレンとなってきたことに気づく。幸右衛門の「わぁめでたい」に、「相手の男も分からんのに何がめでたい」と女房に一喝され、「そや、そや、こらえらいこっちゃ」と、うろたえるばかり。
女房は何を言い出すか分からない幸右衛門に隠れているように言い、お光を呼んで相手の名前を問いただす。女房「誰やねん」、お光「あのー、お寺の伝吉さん」、これを隠れて聞いていた幸右衛門、「よう取った、よう取った、あの取りにくい伝吉つぁん、よう取った」と、大はしゃぎ。天下を取った気分で寺へ乗り込む。
幸右衛門 「貰いまひょ、貰いまひょ、伝吉つぁん養子に貰いまひょ」
和尚 「まだ、言うとる。あの伝吉はな、五百石の跡目を・・・・」
幸右衛門 「・・・うちのお光はポテレンじゃい」
和尚 「伝吉があんたんとこの娘のお腹を大きくしたと・・・」、困ってごじゃごじゃいう和尚に、
幸右衛門 「もうこうなったらしゃあないやないか。伝吉つぁんは植木屋でも大丈夫、すっくりと教えるさかいな。・・・うちの秘伝の接ぎ木やら根分けから全部教えて・・・・。じきに子供ができまっさ、男の子やったらそれを跡目の方へ回して五百石でも八百石でも継したらよろしいのや。伝吉つぁんをこっちに取って、向こうへ子供を継がすがな」
和尚 「そうそう武士の家を、勝手に取ったり継がしたりできるかいな」
幸右衛門 「心配しなはんな、接ぎ木も根分けも、うちの秘伝でおますがな」
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