「浮世根問」


 
あらすじ 何でも知ったかぶりの隠居の所へ八公が質問攻めで困らせに来る。

八公 「ご隠居、どう考えても分からねえことがあるんで」

隠居 「何でもお聞き、”聞くは一刻の恥、聞かぬは末代の恥”と言うじゃろ」

八公 「松茸じゃなくて、がんもどきの裏表?」

隠居 「裏でない方が表、表でない方が裏」、なんて禅問答のような答え。

八公 「海の水はなんであんなにしょっぱいんで?」

隠居 「鮭(しゃけ)がいるからだ。そんなことも知らんのか、なしゃけ(情け)ねえ」と、まだ余裕綽々だが。

八公 「なんでシャケ(鮭)って言うんで?」

隠居 「北の海にいて水が”冷(しゃ)っけえ”からだ」

八公 「鰊(にしん)は?」

隠居 「西の海に居て、方言で”西ん”の海からだ」

八公 「鮪(まぐろ)は?」

隠居 「色がマッ黒に決まってるだろ」、八公は、鰯・秋刀魚・鯖・鯵・鰤・鮃としつこい。

隠居はもういいよと逃げ腰だが、

八公 「お終いにもう一つ、鰻(うなぎ)は?」

隠居 「昔はノロとかヌルと言ったな。鵜が呑み込もうとしたら首に巻き付いて難儀したからだ」

八公「えっ?」

隠居 「まだ分らんのか、鵜が難儀した、鵜難儀、ウナギだ」

八公 「焼くと蒲焼と名が変わるのは?」

隠居 「鵜に呑まれるような馬鹿な魚だ。それを焼いたからバカ焼き、カバ焼きになった」

八公 「バカをカバに何でひっくり返えすんだい?」

隠居 「ひっくり返さないと焦げるだろ」、八公は魚を諦めて、

八公 「伊勢屋で”嫁入りだ”と忙しそうですが、来てから嫁になるんで、”娘入り”ならいいけど、嫁入りは間違いじゃねえですか?」

隠居 「なるほど、お前さんのこねそうな理屈だが、嫁入りでいいんだ。迎える男の目と、来る女の目を合わせて”四目入り”と言うんじゃ。これを目の子勘定という」

八公 「婚礼の席に飾ってある箒と熊手持っている爺いと婆あは何ですか?」

隠居 「蓬莱の島台と尉(じょう)と姥だ」

八公 「梅と竹と松は?」

隠居 「松竹梅だ。目出度いな」

八公 「鶴と亀は?」

隠居 「鶴は千年、亀は万年の齢(よわい)を保つ故、目出度い」

八公 「縁日で買ってきた亀は、その日のうちに死んじまったよ」

隠居 「その日がちょうど万年目だったということだ」

八公 「死んだら何処へ行くんです」

隠居 「極楽か地獄だ」

八公 「極楽は何処にあるんです?」

隠居 「地獄の隣じゃ」

八公 「地獄は?」

隠居 「極楽の隣じゃ」

八公 「極楽は?」、無間地獄のように続く八公の質問攻めに、

隠居 「あー、うるさい。お前ぐらいしつこい奴はいないよ。お前、この間吉田の旦那にクドクド聞いて、一円取ったろ」

八公 「あれは取ったんでなく貰ったんです。吉田の旦那も世の中のことは何でも知ってると言うから、日本から西へずーっと行くと何処へ行きますかと聞いたんです。その先は、その先は、・・・・・と二時間くらいやったらご隠居は喘息が出て、血圧が上がって、涙、鼻水を垂らして入れ歯がはずれて、”お前には敵わない、一円やるから帰っておくれ”と言ったから貰ったんです」、呆れている隠居に、

八公 「ご隠居も極楽が分からなければ、五十銭に負けて帰ってもいいよ」と、手を出す図々しさ。

隠居 「じゃあ、極楽を見せてやる」と、八公を仏壇の前へ座らせる。

八公 「仏壇が極楽?」

隠居 「そうじゃ、お位牌が仏様、蓮の花が供えてある。鈴と木魚とお経で天上の音楽を奏でる。あたり一面、線香の煙の紫雲が棚引いておるじゃろ」、さすがの八公もこれには参ってぐうの音も出ない。しばらくして、

八公 「すると人間も死ぬと、みんなここ(仏壇)へ来て仏になるんですかい?」

隠居 「まあ、そういうことだな」

八公 「鶴亀も死ぬてえとここへ来るんで?」

隠居 「鶴亀は目出度いから、ここには来るが、畜生ゆえ仏にはなれない」

八公 「そんなら、何になるんで?」

隠居 「ご覧、蝋燭(ろうそく)立てになっておる」



  
        



立川談志の『浮世根問【YouTube】




尉と姥の像(宝殿駅前) 「説明板
ここは高砂市で、「♪高砂や~」の発祥地。
山陽道(加古川駅→出雲街道分岐地点』)





地獄極楽めぐり図(河鍋暁斎






表紙へ 演目表へ 次頁へ
アクセスカウンター