「厩火事」  柳家小三治

 
★あらすじ★ 髪結いで亭主を食べさせているお崎が仲人の家に来る。今度こそ愛想が尽きたので、別れたいという。
仲人も、女房だけ働かせ遊んでいる亭主などとはもう別れてしまった方がいいと言い出す。
すると、お崎の方は不満で、亭主の肩を持ち始め、のろけまで言い出す始末。

呆れた仲人が、亭主のほんとうの料簡を知るための二つの話をお崎にする。
一つは唐(もろこし)の孔子の話。
孔子の留守中に厩(うまや)が火事になって一番可愛がっていた白馬が焼死した時のこと。
帰ってきた孔子は門弟や、家人の体のことを気づかい心配し、白馬のことには一言も触れなっかたという故事。
二つめは、瀬戸物に凝っている麹町のさる屋敷の旦那の話。
集めた品を客に見せた後、女房が瀬戸物をしまおうとして運ぶ途中に階段で転んだ時のこと。
旦那は「瀬戸物は大丈夫か」しか言わず、女房に「怪我はなかったか」などとは一言も聞かなかった。
以後、女房は里へ帰り、里の方からこんな薄情な家には嫁がせておくわけにはいかないので、離縁してくれと言われ、結局、離縁状を書くはめになったと言う話。
 
お崎の亭主も瀬戸物に夢中だというので、仲人は亭主が一番大事にしている瀬戸物をこわしてみろという。
もし、亭主がお前のからだを少しでも心配すればよし、瀬戸物のことばかり言っているようなら見込みがないから別れてしまえと言う。

家に帰ると亭主が夕飯を一緒に食べようと待っている。
頃を見計らって、押入れから瀬戸物を出し、台所でよろけて割ってしまう。
すると亭主は、お崎の体のことばかり心配し、瀬戸物のことは一言も言わない。
お崎はうれし泣きして聞く。

お崎 「お前さん、そんなにあたしのからだが大事かい」

亭主 「あたりめえだ、お前に怪我されてみねえな、あしたから遊んでいて酒が飲めねえや」


         

             孔子の白馬     亭主の瀬戸物


 ★見聞録★ 昭和62年のNHKテレビ「演芸指定席」から収録しました。演じられたのは、新宿末広亭です。

演題の「厩火事」は、孔子の「論語」郷党篇13の「厩焚、子退朝曰、傷人乎、不問馬」(厩焚けたり(やけたり)、子、朝(ちょう)より退きて曰く、人を傷(そこ)なえりやと。馬を問わずと)からです。

小三治は、お崎を勝ち気で、焼もちやきで、男勝りな女として描いています。
お崎は、仲人の話の途中に何度もちょっかいを入れ、思ったことをすぐ口に出します。亭主にしてみれば、いくら食べさせてもらっているとはいえ、ちょっと大変な女性です。
仲人の言ったとおりに、亭主の大切にしている瀬戸物を割って、亭主の反応を見る時のお崎は、まさにエゴの塊でしょう。
それとも、憎めない、ちょっと可哀想で、可愛い女なのでしょうか。
お崎は、もう一度亭主の本心を再確認しにかかりました。
しかし、そうはうまくは問屋が卸しません。
それにしても亭主の最後の一言は強烈です。
あたりまえと言えばあたりまえ、すかっとしたのは私だけではないでしょう。


古今亭志ん朝の『厩火事【YouTube】



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