「売り声」


 
あらすじ 「先々の時計になれや小商人(こあきうど)」、昔は町内をいろんな売り声の商売人が往来していた。

 「一声と三声は呼ばぬ玉子売り」、「たまーごー」一声では、「どーれ」と、道場の取り次ぎが出て来るようで、「たまごたまごたまごー」では、後から誰か追っかけて来るようで、「たまごー、たまごー」の二声に限る。

 「大根とつくべき文字につけもせず 言わぬ牛蒡をごぼーという」、「だいこんやだいこん・・・」、これではごりごりして鬆(す)がありそうで、「でぇーこ、でぇーこ」と、泥つきで水々しく聞かせ、牛蒡は「ごぼっ」でも、「ごぼっ、ごぼっ、ごぼっ」でも具合が悪く、大根の余ったを借りて来て、「ごんぼー、ごんぼー、ごんぼー」となる。

 難しいのが一文字の麩(ふ)だ。「ふう」、「ふうふう」、「ふうふうふう」でも、屋をつけて「ふや、ふや、ふや」でもなお悪い。そこでございをつけて、「えー、ふ屋でござい」となる。

 一声半の売り声が唐辛子屋心太(ところてん)屋、「とんげぇー、とんがらしぇー」、「ところぉてんやー、てんやー」

 金魚屋の声は涼やかに一町一声、「めだかー・・・きんぎょー・・・ぅ」と、自然と眠気を誘われる。これとは逆なのが魚屋、大声で「おーいわしこぉっ」と、魚が生きて跳ね返るようだ。

 ある夏の日、「おーいわしこぉっ、おーいわしこぉっ」、すぐ後から「ふるい、ふるい、ふるいー」、
魚屋 「こらぁ、篩屋(ふるいや)、俺は生ものを売ってるんだ。後から古いーってついて来られちゃたまんねえや。向こうへ行ってくれ」

篩屋 「いつもここらを売って歩ってるんで、お前さんこそほかで売ったらいいでしょ」

魚屋 「生もののあとだから具合悪いってんだ。・・・じゃあ、お前先にやれ」

「ふるい、ふるい、ふるいー」、「おーいわしこぉっ」で、古い鰯でこりゃ駄目だ。

魚屋 「・・・ほかに行かねえと張っ倒すぞ」と、喧嘩が勃発。そこへ古金屋が割って入った。

古金屋 「同じ小商人同士が喧嘩したってどっちの得にもなりゃしないよ。悪いようにはしないから、・・・まあ、魚屋さんが先に立ってやんな、篩屋さんが続いて、その後からあたしがやるから」

「おーいわしこぉっ」・・・「ふるい、ふるいー」・・・「ふるかねぇー、ふるかねぇー」


  
        




魚屋・八百屋





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