「もぐら泥」

 
あらすじ 日本の泥棒で有名なのは、石川五右衛門熊坂長範袴垂保輔鼠小僧次郎吉弁天小僧稲葉小僧・・・なんてのは歌舞伎、講談、浪曲、落語にも登場する。この噺に出て来るのはもっと格下の泥棒。

 夜更けに帳場で店の帳面をそろばんではじいている主人。どうしても二円足りない。そばでコックリ、コクッリ居眠りしているおかみさんに聞くと、「あっ、うっかりて話すの忘れちゃった。ちょっと帳場のお金拝借して買い物したんですよ」と、涼しい顔。

 明日は晦日でいろんな支払いがある。どうしたもんかと腕組みして考えていると、台所の土間の方で、何やら音がする。よーく見ると敷居の下からが出て何か探している。これはもぐら泥と言って、昼間は乞食のなりであちこちをうろついてあたりをつけ、夜中にもぐらのように敷居の下を掘って、そこから手を突っ込んで掛け金をはずして侵入する泥棒だ。

 主人はまた居眠りを始めたかみさんをそっと起こし、あれを見ろと指さす。「ああらいやだ、気味が悪い。あんなとこから腕が生えてる」なんて、まだ寝ぼけている。

 主人は細引きを持って泥棒の腕に近づき、腕を柱に縛ってしまう。痛がって悪気はない出来心だ許してくれと懇願する泥棒に、「ふざけた野郎だ。明日警察に突き出してやる。ほうびに二円くらいもらえれば、やりくりがつくというもんだ」

 泥棒は、「家には八十二になるおふくろに、病気のかみさんと八人の子どもがいて養えない」、と泣きついたり、「俺には八十人の子分がいて黙っちゃいない」とか、「仲間が大勢やって来て家に火をつけるぞ」と、脅したりと必死だ。

 主人は「かみさんや子どもを養えない奴に八十人の子分がいるはずはねえや」、「借家だから、火つけられたってどうってこともない」と冷静だ。そのうちに主人とかみさんは奥へ行って寝てしまった。

 泣けど喚(わめ)けど梨のつぶて、近づいて来たのは野良犬で、オレの通り道に怪しげな奴が寝ていると、片足上げて小便ひっかけて行ってしまった。

 泥棒が途方に暮れている真っ暗なところへ通り掛かったのが、いつも頭の中はうす暗い与太郎さん。兄貴分を誘ってなじみの店だからまかせろと、上がった店で大盤振る舞い。あてがはずれてすっかりボラれて、金は足りず兄貴分から五円借りて支払う始末。兄貴分は明日絶対に返せと言って帰って行った。

 与太郎がぼやきながら真っ暗な道を歩いていると下の方から声がかかった。「後で一杯(いっぺい)おごるから、ちょっと手え貸してくれ。中で腕をふん縛られているんだ」、縛られていると聞いて安心した与太郎「おめえ泥棒か。アハハハハ、面白れえなあ」

泥棒 「・・・腹掛けの襷(たすき)の中にがま口が入(へえ)ってるから、そこからナイフを出して俺に持たしてくれ。それで紐切って逃げるから」、与太郎は言われる通りがま口を取り出して、「・・・こん中にナイフが入ってんのか。・・・へへへ、だいぶ景気がよさそうだな」

泥棒 「たいして、入っちゃねえや。五十銭が六つ、一円札が二枚でたったの五円よ」

与太郎 「ふーうん、五円か・・・おめえ、手ぇ縛られてんだな」、与太郎さんがま口を持ってスタコラサッサと駆け出した。

泥棒 「あっ、畜生ー、ドロボー」



     



柳家小三治の『もぐら泥【YouTube】





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