「笑い葺」


 
あらすじ 生まれてから四十五年、一度も笑ったことがないという仏頂さん。女房も連れ添って十五年になるが笑い顔を見たことがなく、心配になって町の医者に相談に行く。
女房 「うちの人の笑う顔を是非とも見たいのですが、そういうお薬はございませんでしょうか?」

医者 「紅葉の根方にできる(キノコ)で紅葉葺というものがある。これを酒に浸して飲ませると、どんなに笑わない者でも自然と笑い出す。これを俗に笑い葺(わらいだけ)と呼ぶ。ちょうど、ここにあるから持って行って飲ませておやりなさい」

女房 「こんな小さな葺を飲んだだけで笑うなんて、・・・ウフフ、ウフフフフ、・・・」

医者 「お前さんは笑わなくてもいいんだよ。まあ、騙されたと思って試してごらん」、家に帰って、

女房 「あたしは一度でもいいから、あなたの笑う顔が見とうございます」

仏頂 「いくら何と言われようとも、俺は笑うことができないのだ」

女房 「実はお医者さまからこれを頂いてまいりました。この笑い葺を飲めばどんな人でも自然と笑い出すと・・・」

仏頂 「こんな物、効くはずがない。お前はあの薮医者に騙されているんだよ。まあ、どうしてもと言うんなら飲んでやろう・・・さあ、飲んだよ、・・・ちっとも笑わないじゃないか」

女房 「そりゃ、あなたまだお薬が体に回っていませんもの」

仏頂 「こんな物で笑うわけがありません。こうなればあたしも意地だから絶対に笑いません」

女房 「そんなこと言わないで一度でいいから笑ってくださいな」

仏頂 「馬鹿馬鹿しい、私はどんなことがあっても・・・ウフフ・・・笑いません・・・ウフフフ・・・」

女房 「まあ、お笑いなすったじゃありませんか」

仏頂 「そんな・・・ウフフ・・・笑ってなんか・・・気のせいだよ・・・ウフフフ、ウフフフ・・・こりゃおかしくなってきた。ハハハハハ、こんなお多福を女房にしているなんて、・・・ハハハハハ・・・ああ、おかしい・・・何から何までおかしくなってきた、ハハハッハハハ・・・」、ついに仏頂さん、笑いっぱなしになってしまった。

 女房も仏頂さんの笑い顔を見て嬉しくて笑い通しで、「笑う門には福来る」で、日本中、世界中、天上天下のお金がみんな仏頂さんのところへ集まって来て、大金持ちになった。

 一方、天上でも地獄でもお金が全部、仏頂のところへ吸い寄せられてしまって、月も星も閻魔も奪衣婆も赤鬼、青鬼みな貧乏になってしまった。天と地で緊急対策会議が開かれ、地獄では笑える者はいないので、お月さんに笑ってもらって、仏頂の家のお金を吸い上げようという結論に達した。

 早速、お月さんは仏頂の家で満月となって、大声で笑い始めた。これを聞いた仏頂のお金がぞろぞろと出て行こうとするので、

仏頂 「ウハハハ、お前たち、これからどこへ出掛けるのだ」、「へえ、天上でお月さまが笑っていますので、また天に戻ろうかと思いまして」

仏頂 「アハハハハ、お前たち、出て行くにはおよばないよ」、「それはどうしてで?」

仏頂 「ありゃみんな空笑いだ」


  
オオワライタケ(きのこ図鑑より)
     





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