「八問答」
★あらすじ 横町の知ったかぶりの隠居のところへ作次郎が遊びに来る。
隠居 「おぉ、作さんかよく来たな。お前この頃、神仏の信心に凝っているそうじゃないか」
作さん 「へえ、床屋の親方が不忍の弁天さまに願掛けをすれば福が授かるというので、七日の間、日参しました」
隠居 「そりゃあ、えらいね。それで福は授かったのかい?」
作さん 「満願の日に弁天さまに”福はいつ授けてくださいますか”と聞いてみたら、弁天さまが”お前に福が授けられるくらいなら、ここに賽銭箱なんか出しておきはしないよ”って言ったもんで、もう弁天さまは諦めて山下の方へぶらぶら歩いて行くと、米俵を二つかついで行く爺さんに出会いました。よく顔を見ると、なんとこれが大黒さまなんで」
隠居 「米俵二つか、景気がよさそうだな」
作さん 「今時分、どちらへと聞いたら、”あんまり不景気なんで米を二俵売りに行くところだ。他言はするなよ”と言われちまって。どこも不景気なようで」
隠居 「馬鹿馬鹿しい話はいい加減にして、それなら八幡様にお願いしてみなさい」
作さん 「へ~ぇ、八幡様はそんなにありがてえ神様なんですかい?」
隠居 「そりゃあ、そうさ。何しろ世の中のことはすべて”八”という字から成り立っておる。天の高さが八万由旬、地の深さが八万ダラ、神様の数が八百万(やおよろず)、八十万(やそよろず)神、八万地獄、東昭神君の関東ご入国が天正十八年八月一日、徳川さまのご身代が八百万石で旗本八万騎、江戸が八百八町で、大坂が八百八橋、京都は八百八公卿、近江の湖水が八百八流れ、長命寺の石段が八百八段、八郎潟、花札遊びに八八、つっつくとやっかいなのがハチの巣で、狸のキンタマ八畳敷、お前はいつでも嘘八百・・・」
作さん 「へぇ~、なるほど。八のつくものは多いもんですねえ」
隠居 「八という字は出世をする字でもある。八幡太郎義家、鎮西八郎為朝、八五郎出世に春日八郎、たこ八郎・・・」
作さん 「義経は九郎判官、源九郎ですよ」
隠居 「牛若丸の時に習った剣術が鞍馬八流、壇ノ浦の八艘飛び、・・・」
作さん 「弁慶には八はつきませんよ」
隠居 「背中に七つ道具を背負って、弁慶の一番勝負だ」
作さん 「へぇ、足し算もするんで、・・・じゃあ、石川五右衛門はどうなんで」
隠居 「五右衛門は京の南禅寺の三門(山門)に住んでおった」
作さん 「なるほど、・・・でも、曾我兄弟は十郎と五郎で、足しても引いても八にはなりませよ」
隠居 「そこが素人の浅はかさだ。仇討ちには必ず仇がいるもんだ。工藤祐経を忘れてはいかん。十足す五で十五、工藤の九を足すと二十四になるだろ。三人いるからこれを三で割らねばならん。お前でもこれぐらいの割り算はできるだろ。答えはちゃんと八になるではないか」
作さん 「へぇ、こりゃあ、恐れ入り谷の鬼子母神、素人の赤坂見附だね」、調子に乗って、
隠居 「仇討ちはそうは容易くは成就できない。そこで曾我兄弟は夜中(やちゅう)に仇討ちに行ったろう。だから世間で夜討(やうち)といってるじゃないか」
作さん 「いいや、あれは曾我の夜討(ようち)ですよ」
隠居 「夜(四)討に二人で行くから夜(八)討というんだ」
|
「絵本牛若丸」【YouTube】 石川五右衛門
「曾我兄弟」 (歌川国芳画・ウキペディアより)
不忍池・弁天堂
不忍池
|